9月30日、Jake Roachが「'This is how AI should be used'」と題した記事を公開した。この記事では、OpenAIが自社ASIC「Jalapeño」の設計にAIを全面活用し、RTLからテープアウトまでわずか9ヶ月で完了させたプロセスについて詳しく紹介されている。
「ゼロから9ヶ月」という新しい基準
チップ設計の世界では、一般的にRTL(Register-Transfer Level:論理回路の動作を記述する設計抽象レベル)からテープアウト(製造工場への最終データ送付)まで18ヶ月〜2年かかるとされる。しかもそれは、既存IPや過去の設計資産を流用した場合の話だ。
OpenAIのハードウェア責任者Richard Hoは、Tom's Hardwareのインタビューでこう語っている。
「我々は完全にゼロから始めた。参照できるコードは1行もなかった。それでも非常に優秀なチームとAIの助けを借りて、新しい基準を打ち立てることができた」
タイムラインを整理すると、設計開始は2023年末〜2024年初頭ごろで、コンセプトから発表までの全期間は2年未満。RTLからテープアウトまでの工程に限れば9ヶ月という数字になる。Hoはこれを「新しいベースライン」と位置づけており、業界からは早くも問い合わせが殺到しているという。
※なお「9ヶ月で設計完了」とはRTL〜テープアウトの期間を指す。コンセプト段階からカウントすれば2年未満であり、タイトルの数字はこの工程に限定した値である点に留意されたい。
設計の主役はCodex、そして人間のエンジニア
Jalapeñoの設計で主に使われたAIツールはOpenAI自身のエージェント型コーディングプラットフォーム**Codex**だ。ハードウェア設計のみならず、カーネルの記述・最適化にも全工程を通じて活用された。
Hoが特に強調するのは、Codex自体がプロジェクト期間中に急速に進化していた点だ。元記事によれば、Codexはチップが実際に稼働し始めた2025年5月のカーネル最適化フェーズで特に威力を発揮した。設計着手当初と比較して、ツールとしての能力が大きく向上していたという。
「チップが稼働し始めた5月の時点で、Codexが何をできるようになったかを見て、我々自身が驚いた」
ただし、AIが人間のエンジニアを代替したわけではない。Hoはこの点を繰り返し強調している。
「これがAIの正しい使い方だ。エンジニアを置き換えたのではなく、彼らが超生産的になった。少数の優秀なエンジニアがAIと組み合わさることで、従来より速く、より良いものを作れる」
「速さ」の代償と現実的な課題
開発が順調だったわけではない。Jalapeñoの初期ステッピング(A0)に対し、B0ステッピングは性能/ワット比が最大25%向上している。これは通常のステッピング改善としては大きすぎる数字であり、初版に設計上の見落としがあった可能性を示唆する。
また、今回の9ヶ月という期間は、いくつかの「現実的なトレードオフ」の上に成立している。チームは3Dスタッキングやコパッケージド光学といった複雑な最先端技術を意図的に回避した。Hoは「次のチップが9ヶ月で完成するとは言わない」としつつも、「AIモデルがなければ確実に遅くなる」と述べている。
テープアウト前の最終サインオフには、Synopsys・Cadenceの標準EDAフローを従来通り使用している。スタティックタイミング解析や信号整合性解析といった最終検証は、現時点でAIで代替できる選択肢が存在しないためだ。なお、Jalapeñoの製造ファウンドリについては元記事では明示されていないが、OpenAIはTSMCとの調達契約を持つことが別途報じられており、今後の量産体制に関心が集まっている。
※編集部の考察:AI支援型チップ設計への関心はOpenAI以外でも高まっており、AmazonのTrainium・GoogleのTPUといった自社ASIC開発が先行する中、今回のJalapeñoはAIをEDAワークフローに深く組み込んだ事例として業界的に注目度が高い。
業界への波及と今後の展開
OpenAIはJalapeñoを皮切りにマルチジェネレーションのASICロードマップを公表している。第2世代はテープアウトが近づいており、第3世代はすでに開発中だ。
一方、Jalapeñoの主要エンジニアであり、OpenAIへの2番目のハードウェア採用者でもあったClive Chanは、6月にAnthropicのハードウェアチームへ移籍した。Hoは元記事の中で「業界への展開について近いうちに具体的な話ができる」と示唆しており、OpenAIが自社のチップ設計ワークフローを何らかの形で外部提供することを検討している可能性がある。
また、Hoは「スライドウェアやベーパーウェアではなく、実際にやったこと・やり方・結果を具体的に示せる」とも語っており、今後の情報開示に期待が集まっている。なお、本文中で言及されているAIモデルの具体的な名称については、元記事の記載に基づいており、OpenAIの公式発表とは別途確認が必要な点に留意されたい。
詳細は'This is how AI should be used'を参照していただきたい。