9月23日、madrobot.blogが「Alibaba unveils what it calls China's most powerful AI chip – and plans a 10 trillion-parameter model to catch the U.S.」と題した記事を公開した。米国の輸出規制によってNvidiaの最先端チップを入手できない状況下で、Alibabaは独自AIチップ「Zhenwu V900」と最大10兆パラメータのAIモデル計画を真っ向から打ち出してきた。
Zhenwu V900——50万チップクラスターという力業
AlibabaはApsara Conference(年次カンファレンス)にて、新たなAIチップ「Zhenwu V900」を発表した。同社CEOのEddie Wuが「中国で現在最も強力なAIチップ」と称するこのチップは、前世代のZhenwu M890比で3倍のパフォーマンスを実現するとされている。
最大の特徴は、単一クラスターで最大50万チップを連結してフロンティアAIモデルの学習・推論に使える点だ。個々のチップ性能でNvidiaに劣る部分を、圧倒的なスケールで補う戦略である。Counterpoint ResearchのNeil Shah氏はこの方針について次のように述べている。
余分なコンピューティングパワーを使ってチップの制限を補うことで、中国は国内で競争力を維持できる。
V900はAlibabaの自社データセンターで使用され、同社および同社のクラウド顧客にコンピューティングを提供する。量産開始は2027年初頭を予定している。
なお、AlibabaはV900とNvidiaチップとの直接比較数値は公表していない。
【背景】Nvidia輸出規制の段階的強化
Alibabaがここまで自社チップ開発に傾注する背景には、米国による対中半導体輸出規制の段階的な締め付けがある。バイデン政権下でH100の対中輸出が禁じられ、中国向けに性能を落とした代替品H20も2025年にトランプ政権が輸出規制対象に追加したことで、中国テック企業はNvidiaの最新世代GPUをほぼ入手できない状況に置かれている。HuaweiのAscendシリーズやBaidu・Cambricon等の国産チップ開発が加速しているのも同じ文脈だ。Alibabaは独自チップ開発と大規模クラスター化という「量で質を補う」アプローチで、この制約を正面から乗り越えようとしている。
最大10兆パラメータモデルへの挑戦
モデル面でも大きな計画が示された。Alibabaは現在のフラッグシップ「Qwen3.8-Max」から大幅に規模を拡大し、5〜10兆パラメータ規模の新AIモデルを訓練する方針だ。参考として、中国のMoonshot AIが持つKimi K3は2.8兆パラメータとされており、10兆規模はこれを大きく上回る。
なお、元記事ではQwen3.8-Maxのパラメータ数として「2.4兆」という数値が挙げられているが、モデル名「Qwen3.8」という表記と2.4兆という数値の対応については、AlibabaのQwen公式ページ上の命名規則と照合する必要がある点を留意されたい。※編集部の考察:QwenシリーズはデンスモデルとスパースMoEモデルを混在させており、「3.8」がアクティブパラメータ数(十億単位)を指し、2.4兆が総パラメータ数(MoE構成)を指す可能性がある。
再帰的自己改善——AI安全性議論の核心へ
AlibabaのQwenチームは「再帰的自己改善(recursive self-improvement)」の研究にも着手しているとされる。これはAI自身がより優れたAIの開発を支援するというアプローチで、OpenAIやAnthropicが研究自動化として推進しているものと同じ概念だ。
この概念はAI安全性の文脈でも極めて重要な意味を持つ。再帰的自己改善が一定の閾値を超えると、人間の制御が追いつかない速度での能力向上(いわゆる「知能爆発」)が生じうるという懸念がある。また、自律的に改善を重ねるシステムが人間の意図通りに動作し続けるかを保証する「アライメント問題」は、OpenAI・Anthropic・DeepMindいずれも未解決の研究課題として位置づけている。Alibabaがこの領域に踏み込むことは、モデルのスケールアップ競争という側面だけでなく、AI安全性の国際的な議論においても注目すべき動きだ。
Qwen Intelligenceとスマートフォン向けプラットフォーム
Alibabaはさらに「Qwen Intelligence」も発表した。スマートフォンメーカー向けに、複数アプリをまたいでタスクを実行できるAIアシスタントを構築するためのプラットフォームで、最初のパートナーとして中国のスマートフォンメーカー「Honor」が参加している。端末レベルでのAIエージェント統合という方向性は、AppleのApple IntelligenceやGoogleのGemini Nanoと競合する領域に踏み込むものだ。
米中外交と輸出規制の文脈
このタイミングは意図的だ。発表の数日後には習近平国家主席とトランプ大統領の首脳会談が予定されており、AIを巡る覇権争いが主要議題の一つとなる見通しだ。会談ではNvidiaチップの輸出解禁やAIインシデントのホットライン設置も俎上に載るとされている。
発表を受け、Alibabaの株価は香港・米国の時間外取引でともに上昇した。
Eddie Wuは「あらゆるリソースを動員して顧客のAI需要に応える」としつつ、AIデータセンターのサプライチェーン不足がスケール速度を制限していることも認めた。Alibaba Cloudは2032年までに20ギガワット以上のデータセンター容量を目標としている。
詳細はAlibaba unveils what it calls China's most powerful AI chip – and plans a 10 trillion-parameter model to catch the U.S.を参照していただきたい。