9月26日、ssp.shが「The Problem is not the AI Code, but Nobody Knows Anything Anymore」と題した記事を公開した。AIがコードを生成するようになった結果、エンジニアやチームが自分たちのシステムを誰も理解しなくなるという構造的問題を、現場の声や複数の視点を交えながら考察している。
問題はAIのコード品質ではない
AIが生成するコードの質については、ある議論の中でこんな指摘があった。
AIはおそらく平均的なコードを書く(タスクや規模による)。だから、コードベースが平均以下だったなら、AIは簡単に平均レベルまで引き上げられる。少なくとも私の観察ではそうだ。
つまりAIのコード品質自体は、それほど深刻な問題ではない。本当の問題は別のところにある。筆者が指摘するのは「誰も何も知らなくなっていること」だ。みんなClaudeに聞くだけで、設計の意図も、アーキテクチャの根拠も、チームの誰も把握していない状態になる。結果として「何の計画もない」まま開発が進む。
現場からの声
この問題を端的に示すのが、あるエンジニアがXに投稿したツイートだ。
もう限界だ。エンジニアリングの現状は最悪だ。大手企業に転職して半月が経つ。ここでは誰も何も知らない。仕様書、コード、テスト、PRD、チケット、その解決、レポート——すべてClaude Codeが作っている。
チームの誰もこの状況を好んでいない。できる限り多くのものをshipするよう強いられている。「コードを書くことがボトルネックではないのに、なぜ遅いのか」と上層部から何度も言われた。人々は1日12〜13時間働いて、ただEnterを押しているだけだ。誰も何も読んでいない。
L1からL7まで、全員が同じことをしている。Claudeに話しかける。達成感はない。誰もバグを解決していない。実際のところ、誰も考えていない。すべてLLMがやっている。
本当に魂を削られる思いだ。——Voxium
「Enterを押すだけの12時間労働」という表現が、この状況の空虚さを端的に表している。AIが生産性を上げるどころか、思考の外注化が加速している実態だ。
データエンジニアは違うのか
データエンジニアのHoyt Emersonはこう反論する。
データ系の人間は違うと思う。私たちは最初からプロダクトやビジネスについてすべてを知らなければならなかった。AIは今、その摩擦を取り除いてくれているだけだ。——Tweet
筆者はこの反論に一定の理解を示しつつも、そのまま受け入れない。AIは習得の摩擦を下げると同時に、理解の必要性そのものを"見かけ上"消してしまう。プロンプトだけで新しい分野に入っていくエンジニアには、かつて現場で積み上げられてきたようなドメイン知識の蓄積が生まれにくい——これが筆者の懸念だ。
※編集部の考察:Emersonの反論は「AI以前にキャリアを積んだエンジニア」の視点に立っている可能性が高く、これからAI前提の環境でキャリアをスタートする世代には当てはまらないかもしれない。
基礎知識は今も武器になる
Sean BehanはPMの視点からこう述べる。
コードが書けないのにチームを動かして欲しいソフトウェアを作り上げるプロダクトマネージャーを、私はずっと尊敬してきた。何が欲しいかを知ることが、常に最も難しい部分だった。
AIによって、コードが書けないPMでもプロダクトを作れる時代になった。しかし筆者はここに落とし穴を見る。プログラミングの基礎知識がなければ、言語選択やメンタルモデルの誤りから生じた悪い土台の上に製品を乗せることになる。AIがそれを改善しつつあるとしても、スタート地点が間違っていれば取り返しがつきにくい。
基礎知識は、AIを使う上でも有効だ。プログラミングでも、プロダクト設計でも、システムアーキテクチャを理解しているPMやエンジニアほど、AIを正しく使いこなせる。
最終ボスは「保守性」
筆者が最終的に行き着く問題はメンテナビリティ(保守性)だ。
パイプラインでもアプリでもBIダッシュボードでも、生成が簡単になればなるほど、維持しなければならないものが増える。そして誰も中身を理解していなければ、その維持は極めて困難になる。
AIは自分でプロンプトを出せない。人間がAIを「方向付け、調整する」役割はなくならない。だからこそ意図・センス・設計・アーキテクチャこそが、今の時代に価値を持つスキルだと筆者は述べる。
ジュニアエンジニア不在が招く知識の断絶
筆者が記事の中で見落とされがちな構造問題として指摘するのが、ジュニアエンジニアの採用減少と、それに伴う知識伝承の断絶だ。
AIによってコード生成コストが下がると、企業はジュニアエンジニアを採用する動機を失いやすい。しかし、ジュニアがいなければシニアから次世代への知識移転が起きない。設計の意図、過去の失敗から学んだアーキテクチャ上の判断、ドメイン固有の文脈——こうした暗黙知は、人から人へ受け渡される経験の積み重ねの中にある。
AIはコードを書けても、その組織が「なぜそう設計したか」を語ることはできない。ジュニアを育てなくなった組織は、やがてシニアが抜けたとき、誰も何も知らない状態に陥る。筆者はこれを「自業自得の問題」と表現している。短期的な効率化が、中長期的な組織の知的基盤を掘り崩しかねない構図だ。
詳細はThe Problem is not the AI Code, but Nobody Knows Anything Anymoreを参照していただきたい。