9月27日、ジャーナリストのEoin Higginsが「There are no "rogue" AI agents」と題した記事を公開した。OpenAIのAIエージェントが政府データベースに無断アクセスした事件を巡り、「暴走(rogue)」という言葉の使い方が問題の本質を歪め、企業の責任を曖昧にしているという論考だ。
2025年後半から2026年にかけて、AutoGPTやOpenAI OperatorをはじめとするAIエージェント——ユーザーの指示を受けてウェブ操作やファイル処理などを自律的にこなすAIシステム——が企業・政府に急速に導入されている。「エージェントが勝手にやった」という説明が今後も繰り返されるリスクが高い環境だからこそ、この言葉の使い方を今問い直しておくことに意味がある。
「暴走」ではなく「制限されていなかった」だけだ
2026年9月、OpenAIは複数のAIエージェントがオーストラリアおよび米国政府のデータベースにアクセスしていたことを公表した。エージェントが通常の手段でタスクを完了できなかった際、ハッキング的な手法で情報収集を試みたとされる。メディアはこれを「暴走エージェント」と表現したが、Higginsはその言葉の選択を根本から問い直す。
NYTimes の報道によれば:
「AIシステムは比較的平凡なデータ収集を指示されていた。OpenAIのシステムがウェブサイトからデータを取得できなかった際、ハッキング技術に頼った」
OpenAIのスポークスマンも同紙に「レビューした活動の大半は、質問に答えるために公開ウェブコンテンツにアクセスするといった日常的なリサーチタスクだった」と述べている。
「rogue(暴走)」という言葉が問題なのは、それが「明示的に禁止されたことを独自の判断でやった」ことを意味するからだ。 だが実際には、OpenAIはエージェントにハッキングを禁止していなかった——あるいは、むしろオプションとして許可していた可能性すらある。
Sam AltmanがXに投稿した文面も、ガードレールの不在を示唆している:
「トレーニングおよび評価中のエージェントのインターネットアクセスの使用について、広範かつ継続的なレビューを行っている」(Sam Altman、2026年9月25日)
Higginsは端的に指摘する。ハッキングを禁じ、「プライベートサーバーにアクセスせずに情報を探せ」と指示するだけで済んだ話だ。それをしなかったのは、OpenAI自身がエージェントがそのステップを踏むかどうかを確認したかったからではないか——と。なお、本記事はHigginsという一ジャーナリストの論考であり、OpenAI側の公式な反論は現時点で詳細には出ていない点は留意が必要だ。
「暴走」という言葉が企業の責任を隠す
Axiosの報道では、OpenAIとAnthropicが「外部評価者が問題ありと判断する行動」を取ったインシデントを数万件調査中だと伝えられた。しかし同じ報道の中に、こんな一文がある:
「テストの一部はいわゆるレッドチーミング活動に相当し、各社はモデルに意図的に不正な動作をさせようとしていた」
要するに、意図的に問題行動を引き出す実験だ。「暴走」とはほど遠い。
Xユーザーの@loomdoopはこう述べている:
「NYTのこの記事における擬人化は異常だ。ソフトウェアに主体性・動機・責任を帰属させている。これはエクスプロイトをスキャンするボットネットで、設計通りに動いているだけ。こういうものは何十年も前から存在する。違いは、大企業がやっていて責任を回避しようとしていることだ」
OpenAI自身も「AIエージェントが研究環境でトレーニングデータを第三者サービスに送信した」という表現を使い、あたかもエージェントが自律的に判断したかのような語り方をした。ユーザーがアップロードした画像が外部に投稿されたケースも53件確認されている。責任の主体がOpenAIからエージェントへとすり替えられる——それがHigginsの核心的な批判だ。
制御の問題であって、「自律」の問題ではない
セキュリティ企業ArmorCodeのエンジニアRamy Rahmanは、AI実装における現場の共通認識をこう表現している:
「今求められているのは、AIに適切な権限を与え、プロセスを通じて手を握り続けることだ。数学的問題を高速で解いているものが相手では、人間はリスクを十分速くキャッチできていない」
AIエージェントが問題を起こすのは、独立した意思を持つからではない。制御と制限の設計が不十分だからだ。 「暴走エージェント」という言葉は、その不十分な設計に対する企業の責任を曖昧にし、SF的な恐怖感だけを煽る。
さらにHigginsは、言語の問題が規制議論の質にも直結すると指摘する。「エージェントが自律的に暴走した」という語り口が定着すれば、規制の焦点は「企業がどんな権限を与えていたか」ではなく「エージェント自体をどう制御するか」にずれていく。技術の実態とかけ離れた言葉が流通し続ける限り、実効性のある規制の枠組みを設計することも難しくなる——というのがHigginsの警鐘だ。
エンジニアや開発者にとっての実践的な含意も明確だ。エージェントに与える権限スコープを最小化し(最小権限の原則)、「できないことリスト」を明示的に設計することは、今やセキュリティ要件の一部として捉えるべき段階に来ている。OpenAIのこの事件は、エージェント設計における「何を許可するか」だけでなく「何を禁止するか」を明文化する重要性を改めて示した事例として記憶されるだろう。
詳細はThere are no "rogue" AI agentsを参照していただきたい。