9月23日、PYMNTSが「Tech Firms Mark Down AI Products to Compete With OpenAI and Anthropic」と題した記事を公開した。信用スコアリング企業FICOのCIOが「値引きしないなら契約しない」と明言するなど、OpenAI・Anthropicの台頭を受けてAmazonやMicrosoftといったクラウド・ソフトウェア大手が値下げや無償バンドルを余儀なくされている実態が、本記事では詳細に報じられている。顧客側への交渉力移転と、OpenAI自身の値下げという二重の圧力が、業界全体の価格構造を揺るがしている。
AI価格戦争の構図:クラウド・SaaS各社が値下げを迫られている
PYMNTSが引用するThe Informationの9月22日付報道によると、Amazon、Microsoft、Figmaをはじめとするソフトウェア・クラウド企業が、顧客引き留めのためにAI製品の値引きを相次いで実施している。PYMNTSはこの報道を起点に、業界横断的な価格圧力の構造を独自に整理した記事として公開している。
なお、Amazon・MicrosoftはクラウドインフラとSaaSの両方を手がける大手であり、本記事で言う「値下げ圧力を受けている既存ソフトウェア企業」とはこれらを含むより広い括りで、純粋なSaaSスタートアップに限定されるわけではない点には注意が必要だ。
背景にあるのは、顧客企業の選別意識の高まりだ。多くの企業がAnthropicのClaude CodeやOpenAIのCodexといったAIツールへの支出を増やす一方、他のコストを削減してAI予算を捻出している。その結果、既存ソフトウェアベンダーのAI機能に「追加費用を払う価値があるか」を厳しく問い直す動きが広がっている。
もう一つの火種が課金モデルの変化だ。従来のシート課金(ユーザー数に応じた固定費)から、使用量やタスク完了数に応じた従量課金へ移行するベンダーが増えており、コストが読めなくなった顧客から不満が噴出している。
「値引きしないなら契約しない」——FICOのCIOが強硬姿勢を明言
記事の中で最も鮮明に状況を語っているのが、信用スコアリング企業FICOのCIO、Mike Trkay氏だ。
「ベンダーがAI機能を大幅に値引きするか、コアライセンスにバンドルしてくれないなら……もうそのベンダーとは契約しない」
Trkay氏によれば、FICOの数十社のソフトウェアベンダーが、直近の契約更新の際に追加費用なしで新しいAI機能を提供してきたという。ただし、具体的なベンダー名は明かしていない。
この発言が象徴するのは、価格交渉の主導権が完全に顧客側へ移ったという構造変化だ。かつてはベンダーが新機能の価値を説明して追加費用を正当化できた。しかし今、顧客企業はOpenAI・AnthropicというAIネイティブな代替手段を手にしており、既存ベンダーの言い値をそのまま受け入れる理由がなくなっている。
OpenAI自身も値下げ——圧力は全方位から
記事はさらに、OpenAI自身も独自の値引きを実施していると指摘する。既存のソフトウェア・クラウド企業は、OpenAI・Anthropicという「上流の競合」と戦いながら、同時にそのOpenAI自体の値下げとも競合するという二重の下押し圧力を受けている。
The Informationは「伝統的なソフトウェア企業は、OpenAIやAnthropicに対してどう競争するかをまだ模索中だ」と評している。両社は金融やデザイン分野の業務自動化で技術的なアップグレードを続けており、既存企業が追いかける構図が続いている。
オープンウェイトモデルへの逃避という選択肢
この値引き競争と並行して、別の動きも進んでいる。Bloombergが9月21日に報じたところによると、米国のAI開発企業のプロプライエタリ(独自)モデルのコスト負担を嫌った多くのソフトウェア企業が、オープンウェイトモデル——中国製を含む——への移行を進めている。
オープンウェイトモデルとは、モデルの重みが公開されており、自社データで独自にファインチューニングできるモデルのこと(MetaのLLaMAなどが代表例)。プロプライエタリモデルより安価で、特定ベンダーへの技術的な依存リスクも下げられるとされる。
ただし、コストがゼロになるわけではない。PYMNTSが7月に報じた通り、自社ホスティングには計算インフラ、ストレージ、セキュリティ管理、監視ツール、そして専門人材が必要になる。クローズドなプラットフォームがこれらをサービス料金に含めているのとは対照的に、オープンウェイトを選ぶ企業はこれらの責任を自社で引き受けることになる。
まとめ
AI市場の価格競争は、もはや「AIスタートアップ同士の争い」にとどまらない。OpenAI・Anthropicの台頭がソフトウェア・クラウド各社の価格交渉力を根本から揺るがし、顧客企業はそれを梃子に値引きや無償バンドルを引き出している。さらにOpenAI自身の値下げが加わることで、既存ベンダーは上下両方向からの圧力にさらされている。一方でオープンウェイトモデルという「第三の選択肢」も現実味を帯びており、プロプライエタリAIの価格設定はさらなる下押し圧力にさらされる可能性がある。
詳細はTech Firms Mark Down AI Products to Compete With OpenAI and Anthropicを参照していただきたい。