9月20日、Inside AI Newsが「US Treasury's Bessent, China's He to Launch Talks on AI, Trade, Critical Minerals」と題した記事を公開した。米財務長官ベッセント氏と中国の何立峰副首相がAI・貿易・重要鉱物を議題に会談を開始したことを報じるものだが、AIを巡る交渉には「公開済みモデルは回収不能」という技術的障壁が横たわっており、合意形成の難しさが際立つ内容となっている。
AI・貿易・重要鉱物を一つのテーブルで
2026年9月20日、米財務長官スコット・ベッセントと中国の何立峰副首相がマンハッタンのJPモルガン・チェース本社で会談を開始した。米通商代表部(USTR)代表のジェイミーソン・グリアも同席し、午前10時30分頃から終日にわたって協議が行われた。
今回の会談は、今週後半に予定されるトランプ大統領と習近平国家主席のワシントン首脳会談に向けた準備交渉と位置づけられている。過去16ヶ月にわたって欧州・アジア各地で繰り返されてきた準備会合の最新ラウンドだ。
議題の三本柱
議題は大きく三つに絞られている。
- 貿易停戦の延長問題:2025年11月に韓国・釜山で合意した米中貿易停戦は11月10日に失効する。この停戦は、一時は三桁に達した双方の関税を、中国製品に対しておよそ**20%**まで引き下げたものだ。
- 重要鉱物・レアアース:中国から米国へのレアアース磁石・重要鉱物の供給が「基準を満たしていない」と米政府高官が指摘しており、協議の主要テーマになる。
- AIに関するガードレール:AIモデルが関与する重大なセキュリティ侵害の報告を受け、両国間でのリスク管理の枠組みが議論される見通しだ。
アナリストの見方は慎重だ。中国貿易分析の専門家でAshton Intelligenceの創設者、アナ・アシュトンは次のように述べている。
「首脳会談が控えているため、何らかの成果は示されるだろうが、突破口が開かれる段階にあるとは思わない。現状維持がおそらく双方にとって最善の期待値だ」
AI交渉の核心:オープンウェイトモデルという難題
今回の協議でとりわけ技術的に興味深いのが、AIモデルに関するガードレールの議論だ。
ベッセント長官はオープンウェイトモデルとクローズドウェイトモデルの双方を議題にすると明言した。
- オープンウェイトモデル:モデルの重み(パラメータ)が公開されており、ユーザーがダウンロードして特定タスク向けにファインチューニングできるAIシステム。DeepSeekに代表される中国製オープンウェイトモデルは、Anthropic・OpenAIなど米国製クローズドモデルよりコストが低いため、米国企業での採用が広がっている。
- クローズドウェイトモデル:重みが非公開で、APIなどを通じてのみアクセス可能なシステム。
ベッセント長官はさらに、悪意ある非国家主体(テロ組織・犯罪組織など)が強力なAIモデルを入手できないようにするための共通ガードレールの構築を求めている。これは、中国のAI開発を「競争上の脅威」として扱ってきた従来の米国の立場から、「共通のセキュリティ問題」として捉え直す方向への転換を示す。
ただし、この交渉には根本的な技術的障壁がある。記事はこう指摘する。
オープンウェイトモデルは、その中核要素が公開された時点で回収不能になる。ガードレールの枠組みは、モデルの「作成」だけでなく「配布」と「ファインチューニング」に対処する必要があり、これは従来の輸出規制に前例のない技術的区別だ。
つまり、核兵器や化学兵器のような「製造の規制」では対応できない構造的な問題がAIには内在しているということだ。
経済面の積み残し課題
AI以外の経済議題は、5月の北京首脳会談からの積み残しが多い。
- 中国による米国農産物の年間170億ドル相当の追加購入
- ボーイング航空機200機超の購入コミットメント
- 非戦略物資の関税引き下げを議論する「貿易委員会」メカニズムの立ち上げ
これらが積み残しのままとなっている背景には、双方の国内事情がある。農産物・航空機の購入コミットメントは、米国側にとって国内産業・農業票への説明材料として重要度が高く、単なる数字合わせにとどまらない政治的意味を持つ。「貿易委員会」メカニズムについても、交渉の制度化を図る点で今後の米中経済関係の枠組みを左右する可能性がある。いずれも今週後半の首脳会談で何らかの進展が示されるかどうかが注目される。
一方、米最高裁が国家緊急権限に基づくトランプ関税を違憲と判断したことを受け、米政府は強制労働を根拠とする**12.5%**の中国製品関税を新たな法的根拠で復活させるなど、関税の再構築を進めている。
首脳会談に向けた下地づくり
中国商務省によると、何副首相は中国企業代表団を率いて渡米した。これは5月にトランプ大統領が北京に連れて行った米国CEOグループを鏡映しにした構図だ。トランプ大統領は中国自動車メーカーによる米国工場建設に前向きな姿勢を示している一方、米自動車業界団体は安全保障を理由に中国車の実質的な輸入禁止維持をトランプ大統領に求めており、国内産業との摩擦が表面化しているのも実情だ。
今回の会談の結果は、今週後半に予定されるトランプ・習首脳会談の議題を直接規定する。AIを巡る「共通リスク」の定義付けができるかどうかが、最大の焦点となる。
詳細はUS Treasury's Bessent, China's He to Launch Talks on AI, Trade, Critical Mineralsを参照していただきたい。