9月19日、The Next Webが「Coders lose DMCA case against GitHub Copilot and Codex」と題した記事を公開した。90億ドル超の損害賠償を求めた訴訟が、「生成モデルは既存の著作物からCMIを『除去』していない」という一点で棄却された——その経緯と法的含意を紹介する。
AIコーディングツールへの初の主要判決
2026年9月16日、米国第9巡回区控訴裁判所はDoe v GitHub(事件番号24-7700)において、GitHub・Microsoft・OpenAIに対するDMCA(デジタルミレニアム著作権法)違反の訴えを棄却する判決を下した。
訴えたのは、オープンソースコードを公開している匿名のプログラマーたちだ。彼らは、CopilotおよびCodexが自分たちのコードをライセンス表示(著者名・著作権表示・ライセンス条項)なしに出力していると主張。これがDMCA第1202条(b)——著作権管理情報(CMI)の意図的な除去・改変を禁じる規定——に違反すると訴えていた。
エリック・ミラー判事は全員一致の意見で次のように述べた。
「原告らの通常の著作権侵害の主張をDMCA請求に転換するよう求める招待を、我々は断る」
判決の核心:「生成」は「取得」ではない
判決の最も重要な論点は、Copilotの動作を検索エンジンではなく生成モデルとして捉えた点だ。
DMCA第1202条(b)が定める「除去」は、既存の著作物からCMIを取り除く行為を指す。ミラー判事は「新たな著作物を生成し、そこにCMIを含めなかった者が、何かを『除去』または『改変』したとは言えない」と判示した。
裁判所の比喩が明快だ。検索エンジンは既存のコピーを取得・表示するため、CMIなしで原告のコードと同一のものを出力すれば、より強い主張が成立しうる。しかし原告自身が、Copilotは統計的パターンから次のコードを予測するものと主張していた。裁判所はこれを「取得(retrieval)」ではなく「生成(generation)」と解釈し、DMCA違反の成立を否定した。
「同一性」要件をめぐる解釈
本件の認証問題(certified question)は、第1202条(b)に「同一性(identicality)」の要件が存在するかどうかだった。判事はこの用語自体を「やや誤称(misnomer)」と呼び、法文が文字どおりの同一性を要求しているわけではないと述べた。
ただし、これは被告に有利な解釈を全面的に認めたわけではない。被告側も「2つの著作物が同一である必要はない」と認めており、裁判所もこれに同意した。つまり軽微な改変でCMI表示を省略することは、依然として違反になりうるという解釈を残した。
裁判所は自ら、既存の判例が印刷物(書籍の扉を破る行為など)を念頭に置いており、AIのような新興デジタル技術には「きれいに当てはまらない」と認めた。
原告が自ら放棄した「学習データ」の主張
今回の訴訟には二つの理論があった。
- 出力理論:Copilotが記憶した学習データをCMIなしで出力する
- 入力理論:学習データの取り込み前にCMIが除去された
第9巡回区は出力理論のみを審理し、入力理論については放棄(forfeited)と判断した。
経緯が興味深い。第1次却下申立の審理で、地裁判事が「学習データへのコピーがライセンスの帰属要件に違反するか」と直接問うた。原告側弁護人の回答は「おそらく違反しない(Perhaps it doesn't)」。その後、誰もこの発言を口頭・書面で訂正しなかった。
AI学習データをめぐる法的争点は業界全体で最大の関心事だが、皮肉にも、その点を第9巡回区が判断する機会は原告側の訴訟戦略によって失われた。
なぜDMCAが狙われたか——$9bn超の請求額
通常の著作権法では、法定損害賠償は1著作物あたり最大3万ドルだ。一方、DMCAは1違反あたり最大2万5,000ドルを認める。
数百万件のプロンプトに答えるツールで「著作物」ではなく「違反」単位で計算すると、賠償額は天文学的になる。Courthouse Newsによれば、原告は90億ドル超の損害賠償を求めていた。ミラー判事は、DMCA請求を認めることは「壊滅的な(ruinous)責任」を生むと指摘した。
賛否が割れたアミカス(法廷助言者)
今回の訴訟には多数の第三者が意見書を提出した。
原告支持側:Authors Guild(著者組合)、Association of American Publishers、News/Media Alliance、国際科学技術医学出版社協会など
被告支持側:電子フロンティア財団(EFF)、Public Knowledge、Computer and Communications Industry Associationなど
EFFは「広い解釈を認めると、古い著作物をもとにリミックスを作るアーティスト、教室で著作物を使う教師、コードをリバースエンジニアリングするエンジニア、ウェブを索引化する検索エンジンも訴えられうる」と論じた。同組織はこの判決を「勝利(Victory)」と評価している。オープンソース開発者とデジタル権利団体は通常同じ陣営に立つが、今回は対立した。
残る訴訟と周辺動向
DMCA請求は棄却されたが、オープンソースライセンス違反に関する契約違反の訴えが2件、カリフォルニア北部地区連邦地裁で継続している。
オープンソースライセンスの専門家Heather Meekerは、ライセンスの表示要件は通常「再配布」に付随するものであり、「いかなる目的にも使用を認める」ライセンスは開発者が想定していたよりも保護範囲が狭い可能性があると指摘する。
関連する周辺動向としては:
- Anthropicが書籍の無断使用をめぐる訴訟を2026年7月に15億ドルで和解
- ドイツの裁判所がAI音楽ツールSunoの著作権侵害を認定(欧州初)
- 米国司法省が出版社との著作権訴訟でOpenAIを支持
- 2026年7月、Googleがスクレイピングをめぐる別訴訟でもDMCA第1202条は成立しないとの判決が出ており、第1202条はAIシステムへの対抗手段として機能しにくいことが示されつつある
今回の判決はAIと著作権をめぐる法解釈に一つの方向性を示したが、地裁で継続中の契約違反訴訟の行方次第では、解釈がさらに変化する余地も残る。本訴訟は2022年にJoseph Saveri法律事務所と弁護士Matthew Butterickが提起した集団訴訟を起源とする。2月11日に口頭弁論が行われ、7か月後の判決となった。
詳細はCoders lose DMCA case against GitHub Copilot and Codexを参照していただきたい。