9月15日、CNBCが「Is a 'SaaSpocalypse'-like sell-off coming for AI hardware stocks? Not so fast」と題した記事を公開した。AnthropicのDario Amodei CEOがAIモデルの学習ペース抑制を呼びかけたことを受け、月曜にAIインフラ株が急落したが、記事はコンピュート需要の根本的な構造は変わっていないと論じる——学習(training)の減速は、推論(inferencing)の減速を意味しないというのがその核心だ。
「SaaSpocalypse」の再来か、それとも過剰反応か
Anthropic CEO の Dario Amodei が安全性への懸念を理由にAIモデルの学習ペース抑制を呼びかけた週末明けの月曜、AIインフラ関連株が一斉に売られた。対象はチップメーカーにとどまらず、データセンター向けのガスタービンメーカーや電気設備ベンダーまで広範に及んだ。
この動きは、今年初めに起きた「SaaSpocalypse」(SaaSの黙示録的売り崩し)と構図が似ている。当時はAnthropicらの技術進化が従来のSaaS企業の収益モデルを破壊するという懸念からソフトウェア株が叩き売られた。今回はその逆——ハードウェア・インフラ株が売られ、ソフトウェア株が買い戻されている。
今回の売りがより深刻に感じられる理由は、Amodei の呼びかけに OpenAI の Sam Altman や xAI の Elon Musk まで賛同したという事実だ。AI業界の主要プレイヤーが足並みを揃えたように見えた。
なぜ「AIインフラ終了」の結論は早計なのか
CNBCの分析によれば、今回の急落がSaaSpocalypseほどの持続性を持つ可能性は低い。その根拠として3点が挙げられている。
1. Amodeiが呼びかけたのは「学習(training)の減速」であり、「推論(inferencing)の減速」ではない
すでにリリース済みのモデルを使った需要——エージェント型アプリケーションの開発や企業導入——はそのまま継続する。xAI の Grok Bot(xAIが提供するAIチャットボットサービス)や Meta の Muse(Metaが公開した画像・動画生成AIモデル)のような既存モデルを基盤とした新しいアプリケーションが、推論向けコンピュート需要をさらに積み上げていく。
2. 中国は「冷戦の手口」と断じて従わない
中国国営メディアの Global Times は、Amodeiの呼びかけを「米国の先端AIラボが中国の研究を遅らせるための冷戦的戦術」と位置づけた。Amodei 自身も中国が協調する可能性は低いと認めており、さらにトランプ大統領が月曜に減速論に反対を表明したことで、中国が自国のペースを落とす理由はさらになくなった。全員が減速しなければ、誰も減速しない構図だ。
3. オープンウェイトモデルはすでに「野に放たれている」
LLaMA系に代表されるオープンウェイトモデルは、誰でもダウンロード・改変できる。Anthropic や OpenAI のような規制可能な単一エンティティのリスク管理フレームワークの外で、すでに高性能モデルの開発が進んでいる。中国はその中心的な拠点の一つだ。
市場の構造的な問題:過剰な振れは常に起きる
記事が強調するのは「相場は常に行き過ぎる」という原則だ。
今年初めのSaaSpocalypse時、エンタープライズソフトウェア——特にサイバーセキュリティ——への弱気論は行き過ぎていた。AIが企業の基幹システムを一夜にして無効化するわけではないという見立ては正しかったが、それでも相場は下に行き過ぎた。元記事によれば、こうした売りの連鎖の中でヘッジファンド「Situational Awareness」(AIリスクの定量分析を専門とする独立系ファンドとして記事中で言及されている)が破綻するまで売りは続いたという。
今回のインフラ株下落も同様のダイナミクスが働いている可能性がある。一方で、ソフトウェア株(CrowdStrike、Palo Alto Networks が2桁%上昇、Salesforce が4%超上昇)の急騰も「上への行き過ぎ」になるリスクがある。
短期的に市場を揺らす2つの追加リスク
記事は今週特有の変数にも言及している。
- FRBの利上げ:CMEグループの FedWatch ツールによると、9月17日のFOMC会合での利上げ確率は約**93%**と市場は織り込んでいる。金利上昇局面ではグロース株全般への売り圧力が高まりやすく、AIインフラ株にとっても逆風となる。
- 11月の中間選挙:政治的不確実性が高まる局面でのポジション拡大はリスクが大きい。
こうした背景から、記事の結論は「月曜は過剰反応すべき日ではない」というものだ。MicronなどのAIインフラ株に小さく打診買いを入れつつも、大きな勝負は避ける姿勢を示している。
本質は変わっていない:世界はコンピュートを必要としている
記事全体を貫くテーゼはシンプルだ。現時点でリリース済みのモデル能力だけを前提にしても、世界のコンピュート需要は供給を上回り続けている。 Amodei の呼びかけがグローバルに実行されるかどうかに関わらず、この需給構造は変わらない。
ヘッドラインに基づく弱気相場が一巡したとき、長期的に勝ち残るAIインフラ企業のポジションを積み上げていく——それが記事の提示するスタンスである。
詳細はIs a 'SaaSpocalypse'-like sell-off coming for AI hardware stocks? Not so fastを参照していただきたい。