9月14日、a6mzero.comが「This PCB is brought to you by Fable 5」と題した記事を公開した。AIにPCB設計を丸投げし、実際に動く基板を製造するまでの一部始終を記録した実験記だ。
著者が使ったのはAnthropicのClaudeと、ClaudeがKiCadを直接操作するためのMCP(Model Context Protocol)だ。MCPとは、AIモデルが外部ツールやファイルシステムをAPIのように呼び出すための仕組みで、2025年以降急速に普及している。KiCadがMCPサーバーを提供したことで、AIが回路図作成・部品配置・製造ファイル出力まで自律的に実行できる環境が整いつつある。著者はその可能性を、自分の手は一切動かさないという縛りで検証した。
前回の失敗と、再挑戦のきっかけ
著者には前科がある。以前、Claudeの別バージョンでPCB設計を「バイブコーディング」——細かい仕様を決めず、ざっくりした指示だけでAIに実装させる手法——で試みたが、コンポーネントの向きがでたらめで配線もまともにできない惨敗に終わった。新バージョンのリリースを機に「もう一度だけ試してみよう」と、Claudeのウィークリーリセット10時間前という時間制約の中で再挑戦を決意した。
ルールはシンプルに2つだ:
- 基板への手動編集・検証はしない
- 製造前に発生した問題はすべてClaudeに解かせる
著者は「エンドカスタマー」として振る舞い、設計フェーズには一切介入しないという縛りだ。
指示は1つのプロンプトから
Claudeに与えた最初のプロンプトは以下のとおりだ(原文):
I would like you to design me a pcb that will have the rpi pico 2350 four buttons (2 on the left and 2 on the right, watchy buttons(or drop in replacement)), GDEY0154D67-FL04 display. The size of the pcb will be same as the size of the GDEY0154D67-FL04. The rpi pico will drive the screen and the buttons will control the rpi pico. Also have an i2c, and some gpio pins out. Use the kicad mcp, let me know when the schematic design and placement are ready
目標仕様は、RP2350(Raspberry Pi Pico 2搭載チップ)ベースで、1.54インチE-inkディスプレイ(200×200)、8MB QSPIフラッシュ、ボタン4つ、I2CおよびGPIO端子付き。サイズは31.8 × 37.32 mm、4層基板という構成だ。ClaudeはKiCad MCPを通じてKiCadを直接操作し、数時間かけて回路図・部品配置・製造用ファイルを自律的に出力した。
65個のDRCエラーと部品選定の誤り
最初から完璧ではなかった。同僚に初期設計を見せると、真っ先にDRC(Design Rule Checking:基板設計の規則違反を自動検出する機能)の確認を求められた。著者自身はDRCを知らなかったが、確認してみると65個のエラーが存在していた。ルール通り、Claudeにエラーを伝えるだけで手は動かさなかった。
コンポーネント選定でも問題が出た。代表的なものが以下の2件だ:
- SPIフラッシュ(W25Q128JVS):SOIC-8 wideパッケージのチップを選んだが、基板のパッドはSOP-8サイズで、チップが大きすぎて収まらない。最終的にP25Q64SHに変更した
- ブーストコンバータ用トランジスタ:逆にチップが小さすぎてパッドに合わない
いずれもJLCPCBにファイルをアップロードして初めて気づいた問題だ。製造前に発覚したのは不幸中の幸いといえる。
配線ツール選択が明暗を分けた
ネット数54、フットプリント65、未接続線118本という設計に対し、ClaudeはオープンソースのFreeroutingを採用した。2分間、17パスを実行した結果、69本しか接続できず49本が未接続のままフリーズ。残りはClaudeが手動配線で補った。
発注後、同僚から別のオープンソースツール「KiCadRoutingTools」を紹介された。こちらはわずか1.25秒で全配線を完了した。著者は次のプロジェクトではこのツールを使うと明言している。配線ツールの選択一つで、結果が大きく変わることが実証された形だ。
JLCPCBに発注、5枚で130ユーロ
PCBメーカーへの発注経験がゼロだった著者に対し、ClaudeはJLCPCB向けのファイル一式を準備し、GUIの操作手順まで指示した。5枚フルアセンブリで130ユーロ。E-inkディスプレイは地元のショップから別途調達した。
届いたボードをノートPCに接続すると、即座に認識。ショートチェック(3.3VとGND間)を事前に実施して問題がないことを確認したうえで接続したところ、あっさり動作した。ストップウォッチやアルバムビューアなどの概念実証アプリを実装して動作確認済みだ。E-inkの特性上、電源を落としても画像が表示されたままになる点が特に気に入っているという。
「最高でもあり、微妙でもある」
著者はこの実験の結果を「Great and meh(最高でもあり、微妙でもある)」と表現している。知識ゼロで英語の説明だけから機能する基板が届く体験は純粋に驚異的だ。一方で、こんな感想も正直に書いている:
「やり遂げた達成感はあまりなかった。学習と格闘の過程を楽しんでいた自分がいたから」
次のプロジェクトとして、著者はClaudeとKiCadRoutingToolsを組み合わせたNVIDIA Jetson Orin NanoベースのタブレットPC設計に着手しているという。「AIが全部やってくれる」環境が整いつつある今、ものづくりの喜びをどこに見出すか——この実験はその問いも静かに投げかけている。
詳細はThis PCB is brought to you by Fable 5を参照していただきたい。