9月10日、TechCentral.ieが「Prices of Chinese AI chips soar due to shortage of HBM memory」と題した記事を公開した。Nvidiaの代替を目指して急成長してきた中国製AIチップが、皮肉にも米国の輸出規制によって供給が制限されているHBM(高帯域幅メモリ)の不足という壁に直面している。「米国規制チップの代替」を掲げるチップが、「米国規制メモリ」なしには成り立たないという構造的矛盾が、いま価格急騰という形で表面化した。
HBM不足が引き金に
中国の主要AIチップメーカーが相次いで製品価格を引き上げている。直接の原因は、HBMの深刻な供給不足だ。
HBMは複数のDRAMダイを垂直方向に積層し、広帯域幅でのデータアクセスを実現する特殊メモリで、大規模言語モデルの推論・学習に不可欠な部品である(HBMの技術概要 — Samsung Semiconductor)。現在その生産は実質的にMicron、Samsung Electronics、SK Hynixの3社が支配しており、中国メーカーはこれらへの調達に頼らざるを得ない。
ところが2024年12月、米国が先端HBMへの輸出規制を強化したことで、中国企業はグレーマーケット(非公式の流通経路)経由での調達を余儀なくされた。当然、そのコストは通常市場価格を大幅に上回り、そのしわ寄せが製品価格に直接転嫁されている。
具体的な価格上昇幅
値上げの規模は小さくない。本記事では、元・ユーロ間の換算レートとして1元≒0.128ユーロを一律適用している。
- Huawei Ascend 950DT(2026年末発売予定):25万元超(約3万2,000ユーロ)に設定。わずか2ヶ月前の見積もりと比べて20〜50%の値上がり
- Cambricon 690(発売予定チップ):20〜30%の価格引き上げ
- Ascend 950PR:年初の6万元(約7,680ユーロ)から8万元超(約1万240ユーロ)へ約30%上昇
- Ascend 910C:9万元(約1万1,520ユーロ)から11万元超(約1万4,080ユーロ)へ上昇
Iluvatar CoreXやMetaXといった中小メーカーも同様の値上げに踏み切っている。
供給不足が流通構造も変える
価格上昇だけでなく、チップの流通パターンにも変化が生じている。
Iluvatar CoreXは今年、ByteDance(TikTokの親会社)へのGPU納入数を前年比2倍の10万ユニットに増やしたと報じられており、自社内部向けに確保していたチップまで転用してこの需要に対応したとされる。
ByteDanceへの主要サプライヤーはHuaweiが筆頭で、Cambricon、Iluvatar CoreXが続くが、コスト増と納期の遅延が中国国内のAIインフラ拡張の足かせになっている構図だ。
地政学リスクとしての半導体サプライチェーン
この状況は、中国が抱える構造的な課題を浮き彫りにしている。米国によるNvidiaへの輸出規制が生み出した500億ドル規模の市場空白を国産チップで埋めようとしているが、その国産チップ自体が米国の規制対象メモリに依存しているという矛盾だ。
Nvidiaの代替を目指しながら、基幹部品の調達では依然として米国の規制の影響下に置かれている。HBMの国産化についても取り組みが進められており、CXMT(長鑫存儲技術)などが独自HBMの開発を進めているとされるが、先端品の量産体制確立には相応の時間を要するとみられている。HBMの国産化が軌道に乗らない限り、この構造的な脆弱性は解消されない。
米国の輸出規制をめぐる動向については、米商務省 Bureau of Industry and Security(BIS)の輸出管理情報も参照されたい。
詳細はPrices of Chinese AI chips soar due to shortage of HBM memoryを参照していただきたい。