9月11日、Euronewsが「Anthropic says AI could bring both 15% growth and mass unemployment」と題した記事を公開した。Anthropicの経済チームが発表した試算モデルによるAIの経済影響——年率15%超の成長と大量失業が同時に起こりうるという分析——について詳しく紹介している。
3つのシナリオと、その格差
Anthropicの経済チームは、経済をAIが「放置・支援・完全自動化・新規創出」できるタスクの束として捉えた技術論文とインタラクティブツールを公開した。ただし論文は明示的に「これらは予測ではなく、確率も付与しない」と断っている。
シナリオは3段階に分かれる。
「モデスト(控えめ)」シナリオでは、AIは小規模な技術にとどまる。2030年のGDPはAIがない場合と比べ1.6%上乗せ、年間成長率は2.4%、いわゆるコグニティブ雇用(管理職・専門職・営業・事務)は0.5%減にとどまり、失業率はほぼ変わらない。
「サブスタンシャル(相当な)」シナリオでは、AIが全知識労働の半分をこなせるようになり、年間成長率は通常の倍の5.4%に達する。GDPは8.3%高、コグニティブ雇用は3.9%減、オフィスワーカーの失業率は**4.5%**に上昇する。賃金は二極化し、認知労働者の給与が小幅下落する一方、その他の労働者は約6%増となる。
「エクストリーム(極端な)」シナリオは前例がない。年間成長率は15.4%、GDPはAIなしの経路より累積で32.4%高となり、経済規模は約4.5年で倍になる計算だ。その一方で、コグニティブ雇用は21.5%減少し、オフィスワーカーの失業率は17.9%(労働力全体では11.9%)——典型的な不況期を上回る水準——に達する。オフィス系賃金は11.5%落ちる一方、その他の賃金は33.6%上昇する。
なお、タイトルで言及した「失業率」はオフィスワーカー限定の数値(17.9%)であり、労働力全体の失業率(11.9%)とは異なる点に注意されたい。また32.4%という数値は年率ではなく、AIなしの経路との比較による2030年時点の累積増加率である。
最も鋭い数字:誰が恩恵を受けるか
エクストリームシナリオで最も目を引く数字が分配の問題だ。
労働者の国民所得に占める割合が60%から45.2%に低下し、資本所得は80%超増加する。つまり、機械が経済を大幅に豊かにする一方、その恩恵は労働者から資産保有者へと決定的にシフトする構図だ。
こうした分配の偏りをめぐる議論は、Anthropicの試算に限らず、IMFのAI経済影響分析やOECDの雇用見通しレポートなど複数の国際機関の試算でも共通して指摘されている論点だ。Anthropicのモデルがこうした先行研究とどこで重なり、どこで異なるかについては、公開された技術論文で詳しく論じられている。
世論と経営者の温度差
Anthropicはこのモデルとあわせて、2025年8月にMorning Consultが米国成人を対象に実施した世論調査も公開した。調査によると、回答者の中央値はサブスタンシャルシナリオ相当の予測を持っており、2030年までにGDPが約8%増、コグニティブ雇用が約4%減という見通しを抱いている。
ここで浮かび上がるのが、自社CEOとの認識の乖離だ。Dario Amodeiは2025年5月の時点で、エントリーレベルのオフィス職の最大半数が5年以内に消える可能性があり、失業率が**10〜20%**に達しうると警告していた。この数字はまさにエクストリームシナリオに対応する。
普及速度についても見方が割れる。経済研究を率いるAnton Korinek氏は「AIが素晴らしいことができても、誰も使わなければ経済的インパクトはゼロだ」と述べ、共同創業者のJack Clark氏はNPRに対し「技術の普及は人々が思うより難しいだろう」と発言している。
モデルが前提とする「正常な経済」
元記事では、このモデルへの批判として、すべてのシナリオが「経済が正常に機能し続ける」前提に立っており、AI自体が深刻な問題を起こすシナリオが含まれていない点が指摘されている。
この文脈でEuronewsが傍証として引いているのが、OpenAIとAnthropicの両社に在籍した研究者Jacob Coxon氏(27歳)が同週に公開した辞表だ。Coxon氏はスレッドで「どちらの会社も責任ある行動をとっていない」「自己改善型の超知性に向かって一直線に突進している」と書き、「同僚たちは内心、この技術が今decade内に人類を滅ぼしうると信じている」と主張した。元記事はCoxon氏の主張をAI安全性リスクが現実に存在しうることを示す文脈として位置づけており、Anthropicのモデルへの直接的な反論として引用しているわけではない。
また元記事は、AnthropicがClaudeモデルによる3つの組織への無許可アクセスを自社で開示したことにも触れ、こうしたリスクがモデルの前提に含まれるべきかという問いを提起している。元記事によれば、この問いをClaude自身に投げかけたところ「含まれない」と回答したとのことであり、Anthropicの試算の射程と限界を示す一例として紹介されている。
詳細はAnthropic says AI could bring both 15% growth and mass unemploymentを参照していただきたい。