9月10日、The Decoderが「Top AI spenders cut per-employee costs by nearly 10 percent in August」と題した記事を公開した。米国企業のAI支出動向を追うRamp AIインデックスの最新データから、高支出企業ほどAIコストを削減しつつある実態が浮かび上がっている。コスト削減の背景には単なる節約志向にとどまらず、モデル市場の価格構造そのものの変化があり、モデルプロバイダーのビジネスモデルにも影響を与えつつある。
トップ1%企業の従業員一人当たりAI支出が8月に9.7%減
法人向け決済・経費管理サービスを提供するRampは、自社プラットフォームを通じて米国企業のAIサービス支出を毎月集計し、AI Indexとして公開している。2026年9月版によると、AI導入は引き続き拡大しているものの、成長ペースは鈍化している。
最も注目されるのが、AI支出上位1%の企業における従業員一人当たりのコスト動向だ。この層の中央値は8月に9.7%減の7,205ドルとなった。一方、上位10%や中央値層では引き続き支出が増加しており、上位1%だけが逆行する動きを見せている。
Rampのチーフエコノミストであるアラ・カラジアン氏は、下落の一因として「8月はエンジニアが休暇を取る季節的な要因」を挙げている。ただし、それだけでは説明がつかない構造的な力も働いている。
トークン単価が41%下落、企業は標準モデルへ移行
もう一つの大きな要因が、トークン単価の急落だ。Rampのデータによると、1Mトークンあたりの実効価格は2026年3月のピーク時から41%下落し、0.68ドルに達している。OpenAI・Anthropicいずれも追加の値下げを発表済みであり、下落トレンドに歯止めはかかっていない。
カラジアン氏は「使用量は増えているが、価格下落を相殺できるほどのペースではないかもしれない」と指摘している。
企業の行動にも変化が出ている。処理量の伸びの大部分は、標準的な価格帯のモデルが担っている。一方、高精度・高コストなフロンティアモデルのトークンシェアは、8月初頭の53%から9月初頭には45%に低下した。
背景には企業の明示的な方針転換がある。カラジアン氏によれば、「標準モデルで十分」と判断した企業が、高価なフロンティアモデルの利用を内部ポリシーで制限するケースが増えているという。フロンティアモデルが依然として高精度を要するユースケースで選ばれる場面はあるものの、多くの業務では廉価なモデルで事足りるという判断が広がりつつある。
オープンウェイトモデルや中国製モデルへの移行は限定的
コスト削減の動きを見ると、オープンウェイトモデル(モデルの重みを外部に公開しており、自社インフラ上で実行可能なモデル)や中国製モデルへの移行が進んでいると思われがちだが、Rampのデータはそれを支持しない。
Rampプラットフォーム上でオープンウェイトモデルを利用している企業の割合は、**AI利用企業の中でも6.4%、全企業ベースでは3.6%**にとどまる。なお、Rampはクローズドモデルへのアクセスも提供するルーティングプラットフォーム経由で計測しているため、実際のオープンウェイトモデル採用率はこれより低い可能性がある。
「AIへの支払い意欲に天井」——市場構造の変化がプロバイダーに問いかけるもの
カラジアン氏は先月のレポートでも、特定フロンティアモデルの採用が伸び悩んでいることや安価なモデルへのシフトを「AIテーゼの亀裂」と表現し、モデルプロバイダーへの警鐘を鳴らしていた(関連記事)。
Rampのデータはあくまで市場の一断面にすぎないが、Anthropicについては近くIPOが予定されているとも報じられており、上場申請によってより詳細な収益構造が明らかになれば、業界全体の実態把握が進むとみられる。価格競争が続く中で、モデルプロバイダー各社が収益を確保できる構造を維持できるかどうかは、今後の注目点の一つだ。
詳細はTop AI spenders cut per-employee costs by nearly 10 percent in Augustを参照していただきたい。