9月11日、BleepingComputerが「AI-powered attack exploited PaperCut flaws to hack 395 organizations」と題した記事を公開した。数百体のAIエージェントを使ってPaperCutの脆弱性を悪用し、世界395組織を侵害したサイバー攻撃キャンペーンについて詳しく紹介されている。
AIエージェントが「空のワークスペース」から4時間でRCEを達成
脅威インテリジェンス企業のGreyNoiseが報告したこの攻撃は、2025年8月31日に開始された。GreyNoiseはインターネット上のスキャン・攻撃トラフィックをリアルタイムで分析・分類することを専門とする企業で、今回の攻撃キャンペーンを早期に検出・追跡している。
攻撃者(GreyNoiseはロシア語話者と推定しているが、同社の発表時点では確定的な帰属ではなく推定にとどまる)は、数百体のAIエージェントを展開し、印刷・コピー・スキャン機器を一元管理する印刷管理ソフトウェア「PaperCut NG/MF」に存在する2件のゼロデイ脆弱性(CVE-2026-81578・CVE-2026-82078)を標的とした大規模な悪用キャンペーンを実行した。
※なお、CVE番号が「2026年」付番となっている点について、元記事時点での公式アドバイザリ記載に基づき原文のまま記載している。2025年8月に悪用が開始された脆弱性にCVE-2026系番号が付与されるケースはNVDの付番ルール上あり得るが、読者は元記事・PaperCut公式アドバイザリで最新情報を確認されたい。
攻撃者はOpenAIのCodexとDeepSeekモデルを組み合わせ、AIエージェントにエクスプロイトの構築・テスト・改良を担わせた。ターゲットリストの生成には、インターネット上の公開資産を横断的に検索できるスキャンプラットフォーム**Netlas**を使用している。
GreyNoiseが記録した攻撃のスピードは圧倒的だ。
「攻撃者は空のワークスペースから開始し、実際の被害者に対して最初のRCE(リモートコード実行)を達成するまでわずか4時間未満、ドメイン管理者権限の取得までさらに2時間、フルキャンペーン開始後は26秒間で少なくとも11組織を侵害した」
— GreyNoise ブログより
さらに、米国内の高校1校に対しては「初期アクセスからドメイン管理者権限取得まで7分」という記録も残っている。
被害の規模と攻撃経路
GreyNoiseのデータによると、この攻撃は48カ国・395組織にわたる少なくとも440件のPaperCutインスタンスを侵害した。
被害の内訳は以下の通りだ。
- 280組織:認証情報を窃取
- 147組織:OSまたはドメインシークレットを取得
- 12組織:管理者権限を取得
業種別では教育セクターが全侵害件数の約半数を占め、国別では米国が最多、英国・フランス・スペイン・カナダと続く。教育機関はパッチ適用が遅れがちなうえ、PaperCutのような印刷管理ソフトを広く利用していることが、攻撃者に狙われた背景として考えられる。
攻撃者は回避する国のリスト(ロシア・中国・イラン・ウクライナ・ベラルーシ・モルドバ・ブラジル・南アフリカ)をAIエージェントに与えていたが、エージェントはこのルールを一貫して守らなかったという点も記録されている。
3つの攻撃パスとその危険性
PaperCutの脆弱性を起点に、研究者たちは以下の3パターンの横展開を観測した。いずれも「1台のサーバー侵害」が「ドメイン全体の完全制圧」へ直結するシナリオであり、被害範囲の広がりやすさがこの攻撃の深刻さを示している。
- LSASSメモリダンプ+Pass-the-Hash攻撃:Windowsの認証情報を管理するLSASSプロセスのメモリとレジストリからパスワードハッシュを抜き出し、そのハッシュをそのまま使ってドメインコントローラーに不正ログインする手法。パスワードを解読せずとも権限昇格できる点が危険だ。
- **noPac攻撃**(CVE-2021-42278・CVE-2021-42287):未パッチの環境に対し、Active Directoryのコンピューターアカウント名を細工することでドメインコントローラーになりすまし、最終的にドメイン管理者権限を奪取するActive Directoryの既知の脆弱性を悪用する手法。
- 直接的なドメイン管理者追加:PaperCutがドメインコントローラー上、またはドメイン管理者サービスアカウントで動作している場合、新規作成したアカウントをDomain Adminsグループに直接追加する最もシンプルかつ即効性の高い手法。
いずれの経路においても、最終的に**DCSync技術**(ドメインコントローラーのレプリケーション機能を悪用してすべてのアカウントのパスワードハッシュを引き出す攻撃)を用いて、ドメイン全体の認証情報データベース(NTDS.DIT)を丸ごと窃取している。DCSync攻撃が成功した時点で、対象ドメイン上のすべてのアカウントが事実上掌握される。
使用ツール群
攻撃者のツールセットは既存の攻撃ツールとカスタム開発品の組み合わせだ。
- **Ligolo-ng**(トンネリング:内部ネットワークへの通信経路を確立)
- **Mimikatz**(認証情報ダンプ:Windowsのメモリから認証情報を抽出)
- **Certipy**(Active Directory証明書サービス攻撃)
- **BloodHound**(AD経路分析:攻撃者視点でドメインの権限昇格経路を可視化)
- **Rubeus**(Kerberosチケット操作)
- **Impacket / NetExec**(ネットワーク攻撃フレームワーク)
- カスタムRust製認証情報収集ユーティリティ
これらの多くはレッドチーム(攻撃側視点でのセキュリティ検証)向けに公開されているオープンソースツールであり、検知回避のための独自実装と組み合わせることで防御側の検知を困難にしている。
「AIが防御側の応答時間を極限まで圧縮する」
GreyNoiseはこの攻撃を「AIが攻撃者にとっての速度ボトルネックを消し去った事例」と位置付けている。エクスプロイト開発・ターゲットスキャン・実行を並列で自動化することで、従来であれば数日かかっていたフェーズが時間単位に短縮された。言い換えれば、パッチ公開から組織が適用を完了するまでのタイムラグが、従来以上に致命的なリスクとなる時代が来たことを意味する。
攻撃の最終的な目的はGreyNoiseも特定できていないが、奪取したアクセスはデータ窃取またはランサムウェア展開に転用できる状態にある。
対応策
PaperCut NG/MFの管理者は、CVE-2026-81578・CVE-2026-82078に対処する緊急セキュリティアップデートを即時適用することが求められる。詳細はPaperCutの公式セキュリティアドバイザリを参照されたい。あわせて、PaperCutサーバーがドメイン管理者権限で動作していないかの確認と、LSASSの保護設定(Credential Guardの有効化)も推奨される。
詳細はAI-powered attack exploited PaperCut flaws to hack 395 organizationsを参照していただきたい。