9月10日、Techstrong.AIが「Microsoft, Major Teachers Union Reach Landmark AI Safety Agreement for U.S. Classrooms」と題した記事を公開した。MicrosoftとアメリカのAFT(全米教員連盟)が、学校における生徒・教師データのAI利用を厳格に制限する法的拘束力のある協定を締結した。生徒データをAIモデルの学習に使うことを原則禁止するという踏み込んだ内容であり、テック企業が教育現場で法的拘束を受け入れた初の事例として注目される。
生徒データを学習に使うな——10項目の法的拘束力ある基準
この協定の核心は、Microsoftが生徒や教師のデータをAIモデルの学習に使用することを原則禁止した点にある。例外が認められるのは、極めて限定的なセキュリティ目的のみだ。
具体的に禁止される行為は以下の通りである。
- 生徒の行動追跡(トラッキング)
- 人間の監督なしにAIが学校の意思決定を自動で行うこと
- ユーザーとのやり取りの商業利用(マネタイズ)
これらは単なるガイドラインではなく、契約違反時には法的責任を伴う「10項目の法的拘束力のある基準」として策定された。定期的な透明性レポートの公開義務と、厳格なセキュリティ対応期限も含まれている。
協定を締結したのは、AFT(American Federation of Teachers、全米教員連盟)、UFT(United Federation of Teachers、ニューヨーク市教員組合)、そしてMicrosoftの3者だ。AFTはアメリカで2番目に大きい教員組合であり、その法的な合意がMicrosoftという大手テック企業に直接課せられるという点で、業界的に異例の構図となっている。
2025年11月より全米の学区に提供開始
この基準は2025年11月1日より全米すべての学区への提供が開始された。既存または新規のMicrosoft契約に対し、再交渉なしで組み込めるよう設計されている点が実用上の重要なポイントだ。
Microsoft社長のBrad Smithは会見で「テック企業が教育方法を決めるべきではないが、保護者・教師・生徒が信頼できるツールを提供することは我々の責任だ」と述べ、業界として公的信頼を獲得する必要性を認めた。
背景:教育現場はAIへの対応が割れている
この協定が締結された背景には、学校現場でのAI利用をめぐる混乱がある。記事が公開された時点で、ニューヨーク市の学区は幼稚園〜8年生(K-8相当)を対象に1年間のAI使用モラトリアム(一時停止)を宣言、ロサンゼルス統一学区は生徒によるAI使用を全面禁止している。
こうした禁止措置が相次ぐ中、UFT会長のMichael Mulgrewは「データのマネタイズを防ぐことで、組合の主要な懸念は解消される」とした上で、既存デジタルプラットフォームの扱いについては引き続き課題が残ると認めている。
$2300万の資金と、OpenAI・Anthropicへの交渉
この協定はAFTが昨年立ち上げた「National Academy for AI Instruction(AI教育国家アカデミー)」の活動から生まれた。Microsoft、OpenAI、Anthropicなどテック各社から計2300万ドル(約34億円)の資金提供を受けて設立されたプログラムだ。
当初は「組合の自律性が失われる」と教育者側から反発も受けたが、AFT側は「安全基準の策定が最終目標だった」と一貫した立場を強調している。
AFT会長のRandi Weingarthenは現在、OpenAIおよびAnthropicとの間でも同様の法的拘束力のある合意を追求中であることを明かした。Microsoftとの協定を「業界標準」として広げることを目指している。
他国・他業界への示唆
今回の協定は、教育分野にAIが浸透していく中で、テック企業側が法的拘束力のある安全基準を受け入れた初の事例となる。学校向けAIの利用制限が法的に明文化されたモデルとして、今後は他国や他業界でも参照される可能性がある。
日本においても、文部科学省が2023年に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表し、生徒データの取り扱いや著作権への配慮を求めているが、法的拘束力を伴う民間企業との合意という枠組みは存在しない。今回のMicrosoft-AFT協定が示した「組合・自治体・テック企業の三者合意」モデルは、制度整備を模索する各国にとって一つの参照軸となりうる。※編集部の考察
詳細はMicrosoft, Major Teachers Union Reach Landmark AI Safety Agreement for U.S. Classroomsを参照していただきたい。