9月11日、Gergely Oroszが「The Pulse: tech companies move to open AI models」と題した記事を公開した。Uber・Pinterest・AT&T・Stripe・Coinbaseといった大手テック企業が、AIコストの急膨張に直面し、フロンティアモデル(ClaudeやGPT-4系などのクローズド最先端モデル)からオープンウェイトモデル(重みが公開されており自社環境で稼働可能なモデル)へのシフトや、タスク複雑度に応じてモデルを振り分ける「モデルルーティング」の導入によってコストを大幅に圧縮した実例を詳しく紹介している。
その規模感を端的に示すのがUberの事例だ。同社は2025年初頭、年間AIバジェットをわずか3ヶ月で使い切るという事態を経験した。こうした「コスト爆発」への対応として各社がたどり着いた共通解が、フロンティアモデル一辺倒からの脱却である。
コスト削減の核心:オープンモデルへの移行
各社の取り組みを横断して見えてくる最大の共通項は、オープンウェイトモデルの活用だ。クローズドのフロンティアモデルに比べ、オープンモデルはコストが2〜20分の1になるケースもある。
Databricksがまとめた調査によれば、Stripe・Coinbase・Uber・Rampのエンジニアへのヒアリング結果として、コスト削減に最も効果的なアプローチの順位は以下の通りだ:
- オープンモデルの採用(最大の効果)
- スマートなモデルルーティング(タスクの複雑さに応じてモデルを振り分ける)
- コンテキスト最適化・利用上限の設定(効果は上位2つに及ばない)
Uber:AIリクエスト単価を34%、セッション単価を52%削減
前述の通り年間バジェットを3ヶ月で使い切ったUberは、エンジニアリングチームが最適化に着手し、以下の成果を出した。
- AIリクエストあたりのコスト:34%削減
- AIセッションあたりのコスト:52%削減
- 3月以降、利用量は増え続けているにもかかわらず、総コストはフラット
具体的な手法として挙げられているのは次の通りだ:
- オープンウェイトモデルを推論サービス上で稼働させる
- 全フロンティアモデル・オープンモデルを定期的にベンチマーク(毎週実施)
- サブエージェントには安価なモデルを割り当てる
- 高度なモデルでは「Medium effort」設定がコスト対効果で最良と判明
- 40万トークン超で自動コンパクションを実行(1Mコンテキストウィンドウ対応モデルでも適用)
- Uberの内製ハーネス「Minions」でプロンプトをキャッシュ
コスト比較で象徴的な数字がある。オープンウェイトモデルによるコードレビューのコストは1回あたり$0.30。これに対し、最安値のフロンティアモデルは**$0.50、最高値では$2.50**に達する。詳細はUberのエンジニアリングブログ「Efficient Software Factory」に掲載されている。
Pinterest:コストを8%以下に圧縮
PinterestのCEO William Readyは決算説明会で次のように述べた。
「オープンモデルを活用することで、比較可能なクローズド独自モデルのコストの8%未満でトランザクションを処理できている。」
つまり、クローズドモデルで$100かかっていた処理が、オープンモデルを自社クラウド上でファインチューニングして動かすことで**$8になったということだ。さらにPinterestは、自社固有のデータでポストトレーニング(学習済みモデルをさらに追加学習させること)を施すことで、クローズドモデルより性能が上回るケースもある**と報告している。Stripe・Coinbaseについても同様にオープンモデル活用への移行が進んでいると紹介されているが、具体的な削減率などの数字は元記事では言及されていない。
AT&T:Claudeからオープンモデルへの移行で56%削減
10万人規模の従業員を抱えるAT&Tは、LiteLLM(複数のLLMプロバイダーへのAPIルーティングを一元管理するOSSツール)を導入し、ワークロードをオープンモデルへ移行した。The Informationの報道によれば:
- コーディングなど高度なタスクのコスト:最大56%削減
- AIの出力品質の低下:わずか2%
AT&Tのエンジニアは、コード生成のような複雑なタスクには引き続き最先端モデルを使いつつ、既存コードのサマリー生成などの軽作業にはオープンモデルを充てるという使い分けを行っている。
Anthropicの価格競争力に陰り
記事はAnthropicの価格ポジションにも言及している。元記事の記載によれば、Opus 5は競合モデルと比較して最大100倍の価格差があるとされる。ただし、この比較はあくまで元記事公開時点(2026年9月)における各モデルの価格・性能評価に基づくものであり、モデルのバージョンや用途・トークン量によって実態は異なる点に留意が必要だ。フロンティアモデルの中でも突出した高コストとなりつつあるAnthropicのフラッグシップモデルに対して、企業側がより安価な代替を求める動きが強まっている背景として紹介されている。
Rampのデータが裏付ける「支出減少」トレンド
元記事にはアップデートとして、RampのAra Krahzianによる実データの言及が含まれている。2026年8月時点で、上位1%の企業のAI支出が前月比10%減少しているというものだ。Gergely Oroszはこれについて「トークン消費量が減ったのではなく、コスト最適化が進んだ結果だ」と分析している。
各社の事例が示すのは、「とにかく高性能なモデルを使い続ける」フェーズから、「タスクに応じたモデルの使い分けとコスト管理」へのシフトが現実に進んでいるということだ。Uberの数字が特に具体的で説得力があるが、AT&TやPinterestの事例も、大企業レベルでこのトレンドが産業横断的に広がっていることを裏付けている。
詳細はThe Pulse: tech companies move to open AI modelsを参照していただきたい。