9月10日、Eurogamerが「After Xbox's massive job cuts, 1,900 Blizzard employees have won a "historic" contract securing protections around gen-AI and mass layoffs」と題した記事を公開した。Blizzard Entertainmentの約1,900人の組合員が生成AIや大規模レイオフに対する保護条項を盛り込んだ、ゲーム業界初の「歴史的」労働協約を批准したことについて詳しく紹介されている。
ゲーム業界初、AIへの「団体交渉権」を明文化
Blizzard Entertainmentの組合員約1,900人が、数年間にわたる交渉の末、同社との最初の労働協約を批准した。この協約を「歴史的」と評したのは、アメリカの大手労働組合CWA(Communications Workers of America)だ。CWAはテック・メディア・通信分野を中心に組織化活動を展開しており、ゲーム業界でも近年Activision BlizzardやZyngaなどの組合化を支援してきた実績を持つ。
協約の最大の特徴は、生成AIの職場利用に関してBlizzardが従業員と「協議・評価・団体交渉」を行う義務を負うという条項にある。ゲーム業界全体でAIを活用した開発効率化やコスト削減の動きが加速する中、企業側が一方的にAIを導入できなくなる仕組みを労働協約として確立したのは業界初の事例だ。
レイオフ対策:14か月の「再雇用優先権」と追加退職金
AIに次いで重要な保護が、レイオフ時の権利強化だ。
協約により、解雇通告を受けた従業員はレイオフ通告日から14か月間、Blizzard内の任意の交渉単位(bargaining unit)の空きポジションに対して「リコール(recall)」、すなわち再雇用される優先権を持つ。交渉単位とは、労働組合との団体交渉の対象となる従業員の集合を指す概念で、所属部署や職種ごとにまとめられるのが一般的だ。さらに、交渉によって4週間分の追加退職金も確保した。
この条項が注目されるのは、その背景にある。Blizzardの親会社であるMicrosoftのXboxは、直近で傘下スタジオから1,600人規模の人員削減を実施しており、さらに1,600人の追加削減も予告されている(今回のBlizzard従業員への直接的な影響は確認されていない)。嵐が迫る中で交渉を成立させた格好だ。
対象範囲と従業員の声
今回の協約が適用されるのは、以下のチームに所属する組合代表従業員全員だ。
- World of Warcraft、Warcraft Rumble、Hearthstone、Overwatch、Diabloの各ゲームチーム
- QA(品質保証)、Platform and Technology、Story and Franchise Developmentの各部門
Overwatch QA担当のSimon Hedrick氏はこうコメントしている。
「この契約はBlizzard Entertainmentの新時代の幕開けだが、私たちだけで終わらせてはいけない。業界全体の全員が、この協約が私たちに与えてくれた保護——レイオフ時の退職金増額や再雇用優先権、職場での不正を申し立てる権利——を享受できる日を楽しみにしている。」
Blizzardの社長Johanna Fariesも声明で「この合意は重要なマイルストーンであり、チームとプレイヤーを共に支えるという双方のコミットメントを反映している」と述べている。
組合化の流れとその意味
Blizzardにおける組合化の動きは数年前から始まっており、DiabloチームのテスターがAppleと並んでゲーム大手初の組合認定を獲得、World of WarcraftチームにおけるBlizzard500人規模の組合結成など、段階的に拡大してきた経緯がある。今回の協約批准は、その集大成と言える。
ゲーム業界では近年、大規模レイオフと並行してAI活用への移行が急ピッチで進んでいる。Blizzardの事例が示す核心は、AIの導入そのものを阻止するのではなく、企業が従業員との協議・評価・交渉のプロセスを踏む義務を制度として確立した点にある。他スタジオや他業界のエンジニア・クリエイターにとっても、AI時代の労働保護のあり方を考える上で参考になる実例だ。