9月10日、Matthias Bastianが「Anthropic built an economic model that frames its CEO's bleakest job forecasts as an outlier scenario」と題した記事を公開した。この記事では、AnthropicがAIの経済・雇用影響を試算した独自モデルを公開し、そのモデル上でCEO自身の悲観的予測が「外れ値シナリオ」として位置づけられることになった経緯について詳しく紹介されている。
Anthropicが2030年に向けた経済モデルを公開
Anthropicは2030年を見据えた米国経済への影響を3つのシナリオで試算したモデルを発表した。
シナリオ1(控えめ):AIの影響がインターネット普及時代に近い水準にとどまる。GDPはわずかに成長し、賃金も安定する。労働市場における「知識労働者」(ここではプログラマー・アナリスト・コールセンター従業員など、主にオフィス環境で情報処理・判断業務に従事する職種を指す)の割合は62.2%から59.7%へ低下する一方、その他の職種は37.8%から39.6%へ増加する程度だ。

Anthropicによる2026〜2030年の米国労働市場予測(控えめシナリオ)。知識労働者は62.2%から59.7%へ減少、その他の職種は37.8%から39.6%に増加。(出典:Anthropic)
シナリオ2(中間):経済成長率が現状の2倍になるが、知識労働者の賃金は伸び悩む。プログラマーやコールセンター従業員が電気工事士や看護師といった職種へ転換を迫られ、そのハードルの高さが失業率を押し上げる。
シナリオ3(極端):GDPが4.5年ごとに2倍のペースで成長。知識労働者の失業率は**17.9%に達し、GDPに占める労働分配率は現在の60%から45%**まで低下する。
皮肉な構図——CEOの予測が「最も起こりにくい外れ値」に
モデルの内容そのものも興味深いが、この記事が指摘する最大のポイントは構造的な皮肉にある。
AnthropicのCEO、Dario Amodeiは2025年5月に「2030年までにエントリーレベルのオフィス職の半数が消え、失業率が10〜20%に達する可能性がある」と警告していた。この幅のある発言のうち、上限に近い水準がまさにシナリオ3(極端)に対応する。
つまり、Anthropic自身が構築したモデルにおいて、自社CEOの発言は「最も可能性が低い」外れ値として分類される格好になっている。シナリオ3における失業率17.9%という数値は、Amodeiが示した幅(10〜20%)の上限域に位置しており、モデル上では「極端」カテゴリに属する。自社のAI研究に基づく楽観的な中間シナリオを描きながら、トップが公の場では最悲観シナリオを語っていたという構造だ。
Bastianはこの点に関して「テック企業の経営者が他者の職を自信満々に予測した歴史は、あまり優しい結末を迎えていない」と指摘する。その例として引かれているのが、Geoffrey Hintonの外れた予測だ。HintonはAIによる放射線科医の代替を早期に断言したことで知られるが、その予測は現時点では実現しておらず、専門家であっても職種消滅の時期・範囲を正確に見通すことの難しさを示す事例としてBastianは言及している。CEOレベルの権威ある発言であっても、同様の過信リスクをはらむという文脈での引用だ。
エンジニアにとっての読みどころ
シナリオ2・3でともに想定されているのが、プログラマーを含む知識労働者の職種転換圧力だ。転換先として挙げられるのは電気工事士や看護師といった現場職であり、スキルセットの断絶が大きく、転換は容易ではないとモデルは前提している。その困難さが失業率上昇の主因として組み込まれている点は、エンジニアが自身のキャリアを考えるうえで参照に値する視点だ。
一方、モデルが「控えめ」から「極端」まで幅広い幅を持たせていること自体、現時点での予測の不確実性を正直に示している。経済モデルとして堅牢かどうかより、Anthropicがどのような前提でリスクを社内外に説明しているかを把握する資料として読むのが実態に近いだろう。
また、Amodeiの発言(10〜20%)とシナリオ3の数値(17.9%)はいずれも同じ高水準の悲観的領域を指しているが、前者はCEOの公開発言、後者は社内モデルの極端ケースという位置づけの違いがある。両者を混同せず、それぞれの文脈で読み解くことが重要だ。
詳細はAnthropic built an economic model that frames its CEO's bleakest job forecasts as an outlier scenarioを参照していただきたい。