9月4日、9to5Googleが「Google's WeatherNext 3 AI model in Search, Gemini has '50% more accurate precipitation forecasts'」と題した記事を公開した。スーパーコンピュータを持てない地域にも高解像度の気象予測を届ける——WeatherNext 3はそのアーキテクチャレベルの問いに対する、Googleの現時点での回答だ。従来のAI気象モデルが抱えていた「学習データのバイアス」という構造的問題を、衛星リアルタイムデータへの直接学習で突破しようとしている。
従来モデルの根本的な限界を突いた設計変更
WeatherNext 3が従来のAI気象モデルと決定的に異なる点は、学習データのソースにある。
WeatherNext 2(2025年11月公開)を含む従来のAI気象モデルは、数値天気予報(NWP: Numerical Weather Prediction)モデルが生成したデータを学習に使っていた。NWPはスーパーコンピュータで動く物理シミュレーションだが、6時間のデータラグが構造的に存在する。急速に変化する降水量や地表温度の予測において、このラグがバイアスの原因となっていた。
WeatherNext 3はこのアーキテクチャを刷新し、静止気象衛星のリアルタイムデータのモザイクを直接学習する設計に切り替えた。大気の状態を継続的に更新し続けることで、より局所的かつタイムリーな予測を可能にしている。この設計転換はGoogleがNeurIPS 2024で発表した研究の延長線上にある取り組みとして位置づけられる。
解像度は「5倍シャープ」に
空間・時間の両面で解像度が大幅に上がった。WeatherNext 2が25kmグリッド・6時間刻みだったのに対し、WeatherNext 3は以下の複数解像度で毎時予報を生成する。
- 温度・水分: 5km解像度
- 地表変数: 10km解像度
- 風速: 25km解像度
これはWeatherNext 2比で約5倍シャープなグローバル気象像に相当する。急速に発達する嵐や前線・降水システムに対して、より早期に詳細な情報を提供できる。
降水予測精度の向上:最大60%のスコア改善
降水予測については、学習データの質にも踏み込んだ。**NASAの衛星ベース降水データ「IMERG」**(Integrated Multi-satellitE Retrievals for GPM:全球降水観測計画の統合マルチ衛星推定データ)と、Googleが独自に構築した衛星レーダーによるグローバル降水再解析データという、2つの高品質ソースを組み合わせた。
精度評価の結果として、中期予報のCRPS(Continuous Ranked Probability Score:確率予報の精度を連続的にスコア化する指標。値が低いほど精度が高い)で以下の改善が確認されている。
- IMERGとの比較: 最大60%改善
- MRMS(地上レーダー網)との比較: 30%改善
- 雨量計との比較: 短リードタイムで10%改善
ユーザー向けには、1日以上先の計画時に「最大50%精度の高い降水予報」として体験できる。特に、これまで予測精度が低かった地域で改善幅が大きい。
恩恵を受けるのは「スーパーコンピュータを持てなかった地域」
従来の高解像度地域気象モデルは、スーパーコンピュータの膨大なコストが障壁となり、ラテンアメリカ・アフリカ・アジア太平洋地域では整備が遅れていた。WeatherNext 3はこれらの地域に対しても高解像度・高頻度の予測を提供できる点を、Googleは特に強調している。衛星データから直接学習するアーキテクチャは、地上観測インフラの整備度合いに依存しにくいという性質を持つ。これは単なる精度向上にとどまらず、気象予測のアクセス格差を縮小しうる設計上の転換点として注目に値する。
また、再生可能エネルギー向け予測も新たに追加された。風力タービンの設置高度に近い100m高度の風速予報や、太陽光発電向けの高解像度雲量・日射量予測が含まれる。
Search・Gemini・Mapsへの統合
WeatherNext 3は本日よりGoogle Search・Google Maps・Geminiアプリへのロールアウトを開始した。ユーザー体験の面では、長期予報の改善が主な恩恵として提示されている。記事公開時点では対応地域・UIの変更範囲・段階的な展開スケジュールの詳細は明らかにされていないが、GoogleはSearch・Gemini・Maps全体への統合を進める方針を示している。今後の公式アナウンスで具体的なロールアウト範囲が明らかになることが期待される。
詳細はGoogle's WeatherNext 3 AI model in Search, Gemini has '50% more accurate precipitation forecasts'を参照していただきたい。