9月4日、Pragmatic Engineerが「The Pulse: Meta wanted to reduce teams by 60% because of AI」と題した記事を公開した。記録的な売上と利益を更新し続けるMetaが、AIを理由に全体の30〜40%規模に及ぶレイオフを計画していた——その内部計画「Project OT」の詳細と、なぜ計画が縮小されるに至ったかを、筆者のGergely Oroszが詳しく掘り下げている。
「Project OT」——60%削減計画の全貌
今年1月、Mark Zuckerbergはハワイの別荘で行われた年次リーダーシップ合宿で、幹部たちとともに極めて大胆な組織改革計画を立案した。コードネームは「Project OT(Organization Transformation)」。
その内容は、AIが日常業務の大半を担うことを前提に、既存チームの人員を60%削減するというものだ。10〜20人規模のチームを、3〜5人の「AIネイティブ」チームに再編し、同等の生産性を維持しようという構想だった。Metaの内部資料には、従来型チームとAIネイティブチームの比較図が掲載されており、Reutersがその一部を入手・報道した。
計画では、2022〜2023年の大規模リストラ(全体の25%削減)を上回る規模のレイオフを5月と11月の2段階で実施する予定だった。筆者のOroszは「会社全体で30〜40%規模のレイオフが計画されていたと見ている」と述べている。
計画の「縮小」——従業員の反発が規模を骨抜きにした
ところが5月19日の夜、第一波レイオフの数時間前にZuckerbergは計画を縮小する判断を下した。翌日のレイオフは全体の10%にとどまり、11月分の計画は取りやめとなった。
なお、タイトルや一部報道では「撤回」と表現されることもあるが、実際には一部レイオフは実施されている点に注意が必要だ。計画が完全に中止されたのではなく、当初想定していた規模から大幅に縮小されたというのが正確な経緯だ。
Reutersの報道によれば、その背景には従業員の公然たる反発があった。
「その頃には、MetaのAI転換施策が自分たちの代替を目的としたものだと確信した従業員たちが、公然と反発していた」(Reuters)
Oroszはこれを「従業員の直感は正しかった」と断言する。Project OTは生産性向上を目的としつつも、実態は可能な限り多くの従業員を削減することを狙ったものだったからだ。
計画が縮小されたとはいえ、実際には一部チームで30〜40%の削減が行われ、業務負荷への対応に苦しんでいる。また、重要なドメイン知識を持つエンジニアがAIのデータラベリング業務に異動させられたケースもあり、その知識の喪失は深刻だったという。
なぜ「AIネイティブ」への急転換を急いだのか
背景にあるのは、Metaの幹部たちがアジアのスタートアップに触発されたことだ。Chief Data OfficerのAlex SchultzやHead of ProductのNaomi Gleitらがアジアを訪問し、AIを中心に据えた組織設計を行うスタートアップに感銘を受けたとされる。
Oroszはここで重要な指摘をしている。「AIネイティブ企業」が小規模なのは事実だが、それらはゆっくりと成長しながら、大規模レイオフを経ずに小さい規模を維持している企業だ。Metaがやろうとしたのは、数年かけて有機的に縮小するのではなく、1年以内に強引なレイオフと突然の人事異動で同じ結果を得ようとすることだった。
小規模チームの現実的なコスト
理論上は、チームが小さければコミュニケーションの無駄が減り、意思決定が速くなる。だがOroszは、小規模チームへの急激な移行が引き起こす現実的なリスクを丁寧に論じている。それは単なる「不便」ではなく、組織の機能そのものを損なうリスクだという点が論旨の核心だ。
- ドメイン知識の喪失:個人が保有する業務知識が突然失われる
- 冗長性の欠如:3〜5人チームで休暇・病欠・急用が重なると、実質2人で全業務を回すことになる
- オンコール体制の崩壊:まともなオンコールシフトには最低6人以上のエンジニアが必要
- スラック時間の消滅:イノベーションを生む「余裕」がなくなり、採用活動・技術ブログ・他チームとの協業も困難になる
- 成長機会の減少:大きなチームほど、ペアプログラミングやフィードバックの機会が多い
Oroszが強調するのは、これらのリスクは「AIが十分に発達すれば解消できる」という性質のものではなく、チームの物理的な人数と組織の成熟度に根ざした構造的な問題だという点だ。AIによる生産性向上が本物だとしても、強制的な人員削減によって有機的な組織の学習能力が破壊されれば、中長期的な競争力は逆に損なわれる可能性がある——これがOroszの核心的な批判である。
Zuckerbergの「Myspace恐怖症」
なぜ記録的な売上と利益を出している最中に、ここまで急進的な組織改革を試みたのか。Oroszはその動機をZuckerbergの競合への強迫観念に求める。
Facebookは2008年、当時ソーシャルネットワークの王者だったMyspaceを3年で陥落させた。Myspaceは従業員数がFacebookの2倍近くあり、2003〜2007年はより速く成長していたにもかかわらず、実行力の差で敗れた。Zuckerbergはその教訓を骨の髄まで刻んでいる。
今日、Anthropicは設立5年、Metaの20分の1の従業員規模でありながら、株式評価額(バリュエーション)が2兆ドル近くに達する可能性があるとも報じられている(出典:Financial Times)。AnthropicはMetaの直接の競合ではないが、ユーザーがChatGPTなどのAIチャットボットに費やす時間は、Instagram・Facebook・WhatsAppに使われる時間ではない——Zuckerbergがそこに危機感を覚えるのは自然な発想だ。
「エンジニアはコストか、資産か」という問い
Project OTが示すのは、Metaの経営層がエンジニアを「利益を生む資産」ではなく「コストセンター」として扱い始めているという構造変化だ。Oroszはこれを、テック企業が長年維持してきた「エンジニアリングは投資すべき利益の源泉」という文化との決別として位置づけている。
「Project OTが示す最も深刻な問題は、AIによる生産性向上ではなく、従業員が次のモデルリリースまでしか雇用が保証されないと感じ始める『ハンガーゲーム』状態だ」とOroszは警告する。「ハンガーゲーム」とは、Suzanne Collinsによるディストピア小説・映画シリーズで、生存をかけた過酷な競争を強いられる世界を描いたものだ。ここでは、AIモデルの更新サイクルごとに自分の職が脅かされる状況——常に次のリリースと競争し続けなければならない雇用環境——を表す比喩として使われている。
詳細はThe Pulse: Meta wanted to reduce teams by 60% because of AIを参照していただきたい。