8月28日、技術メディアPBX Scienceが「JPEG XL Comes Back to Chrome and Firefox」と題した記事を公開した。この記事では、一度Chromeから削除されたJPEG XLが、Rustによるデコーダーのフルスクラッチ実装を契機にChromeとFirefoxの両方で正式サポートへ向けて動き出した経緯が詳しく紹介されている。
この復活の本質は「優れた圧縮技術がようやく認められた」という話ではなく、「長期的に維持できる実装が用意されて初めてブラウザが動いた」という実務的な話だ。その中心にあるのが、Google ResearchがゼロからRustで書いたデコーダー**jxl-rs**である。
なぜChromeはJPEG XLを切り捨てたのか
JPEG XLは2021年にChromeとFirefoxで実験的フラグ付きサポートとして登場した次世代画像フォーマットだ。既存のJPEGをロスレスで再パッケージしてファイルサイズを約20%削減できること、ファイルの一部しかダウンロードされていない段階でも画像の内容を認識できるほど高度なプログレッシブレンダリングを持つことなど、技術的優位性は広く認められていた。
それにもかかわらず、Chromeは2022年にサポートを削除した。公式には「ブラウザエコシステム全体での関心が十分でない」とされたが、真の理由はデコーダーにあった。参照実装のデコーダー(libjxl)は**約10万行のマルチスレッドC++**で書かれており、ブラウザが扱うコンテンツの中でも最も多様で信頼性の低い画像に、これほどの規模の新規コードを追加することは、攻撃面の大幅な拡大と長期的なセキュリティパッチコストを意味する。Safariは2023年からサポートしているものの、主要2ブラウザが未対応の状況では実質的な普及には至らなかった。
Mozillaが設けた「Rustで書かれていること」という条件
Mozillaはデコーダーの受け入れ条件を明確に定義していた。メモリ安全・高速・コンパクト・広範な互換性、そしてC++ではなくRustで書かれていること——これが出荷の前提だった。
その条件を満たすためにGoogle Researchが開発したのがjxl-rsだ。Rustはメモリ安全性をコンパイル時に保証する設計であり、バッファオーバーフローや解放後使用といったC/C++で頻出するメモリ系の脆弱性を構造的に排除できる。Firefoxの実装はこのjxl-rsをベースとし、Chromiumの新しい計画も従来のC++コードを復活させるのではなく、同じRustデコーダーを採用している。
8月24日、MozillaとChromeチームはそれぞれ独立して、数時間差で以下を発表した。
- Mozilla: Firefox 157(2026年9月末リリース予定)でJPEG XLをデフォルト有効化する意向を公表
- Chromeチーム: BlinkエンジンへのJPEG XLデコードサポートのシップ意向を提出(具体的なリリース日は未定)
両者が互いの投稿を参照することなく同日に公表したという事実は、Rustデコーダーの完成が業界全体にとってのブロッカー解消だったことを示している。
復活したからといって、勝者が決まったわけではない
両者の発表はあくまで「シップする意向」であり、即座の全ユーザー展開ではない。Firefoxはブラウザとプラットフォームごとに段階的ロールアウトを計画しており、Chromeも全ユーザー向けの有効化日程は示していない。
性能面にも議論が残る。Mozillaの内部比較では、一般的なWeb写真の圧縮では**AVIF**の方がJPEG XLより小さなファイルサイズになるケースが多い。またロスレスモードのデコード速度については、あるエンジニアのベンチマークで「ロスレスWebPの約30倍遅い」という数字が報告されたが、後にベンチマークツールが2回デコードパスを実行していたことが判明し、約15倍遅いに修正されている。それでもモバイル・ラップトップでのバッテリー消費への影響については議論が続いている。
JPEG XLがロスレス画像やプログレッシブローディングで明確な優位性を持つ一方、一般的なWeb写真ではAVIFに分がある、という構図は変わっていない。
この復活が示すこと
JPEG XLの復活が示すのは、「圧縮の数字よりも、長期的に維持できる実装の方がブラウザ採用の鍵を握る」という事実だ。Mozillaが具体的な条件を設定し、Google Researchがそれを達成した。その結果として、3年越しの膠着がわずか数時間で動いた。画像フォーマットをめぐる競争は続くが、Rustによるブラウザコンポーネントの実装という流れは、この件を超えてより広い領域に影響を及ぼしていく。
詳細はJPEG XL Comes Back to Chrome and Firefoxを参照していただきたい。