8月29日、CNBCが「Big Tech's massive AI spending is putting one of its longtime strengths to the test」と題した記事を公開した。AlphabetがIPO以来初めてキャッシュアウトフローを計上し、Metaの長期負債が1年で2倍超に膨らむなど、「財務優等生」として知られてきたBig Techのバランスシートに異変が生じている。S&PやMoody'sといった格付け機関も現行の支出ペースが続いた場合の信用力低下リスクに言及しており、その実態をCNBCが詳報した。
設備投資がキャッシュフローを超え始めた
AI投資競争に突入したMeta、Amazon、Alphabet、Microsoftの4社(いわゆるハイパースケーラー:超大規模クラウド・インフラ事業者の総称)は、かつては潤沢な手元資金と低い負債比率を誇る「財務優等生」として知られていた。2023年のシリコンバレーバンク危機のような市場混乱期においても、堅固なバランスシートが株式の安全資産としての地位を支えていた。
しかしその構図が崩れ始めている。設備投資(capex)が営業キャッシュフローの100%を超える水準に達した企業も出てきており、外部資金調達が避けられない状況になっている。
2026年4〜6月期の数字を見ると状況は明確だ。
- Meta:capexが前年比88%増の311億ドルに膨らみ、フリーキャッシュフロー(FCF:営業キャッシュフローから設備投資を差し引いた、企業が自由に使える現金。企業の財務的余力を示す指標)は前年比91%減
- Alphabet:capexが前年比2倍の449億ドルとなり、2004年のIPO以来初めてキャッシュアウトフローを計上
- Amazon:capexが前年比68%増の542億ドル、FCFはマイナス88億ドル
- Microsoft:capexが2倍以上に拡大しながらも、FCFは23%減の196億ドルと相対的に健全
FactSetのコンセンサス予測では、2027年のこれら4社の合計capexは約9,600億ドルに達する見込みだ(元記事準拠の数値)。一方、合計営業キャッシュフローの予測は約9,050億ドル。つまり設備投資が稼ぎを上回る構造が定着しつつある。2027年にFCFがプラスと予測されているのはMicrosoftのみだ。
社債発行と「オフバランス」調達が加速
資金ギャップを埋めるため、各社は積極的に債券市場を活用している。
Alphabetは複数の通貨・複数回にわたって社債を発行。2026年8月には250億ドルの社債を完了し、先週はオーストラリアで36億ドルの初の豪ドル建て債を発行した。2026年2月には満期が2126年という100年債(スターリング建て)という異例の発行も行った。6月末時点の長期負債は約1,150億ドルと前年比で3倍以上に急増している。
Amazonは2026年に入りアメリカ・ヨーロッパ・カナダで約640億ドルを調達。7月にもさらに約250億ドルを発行し、長期負債は6月末時点で2,220億ドル(前年比67%増)に達した。ただしCNBCの取材によれば、Amazonは引受業者に対して2026年中の追加発行を行わないと伝えているという。
Metaは2025年秋の約300億ドルに続き、2026年4月にも250億ドルの投資適格債(信用格付け機関からBBB-以上の格付けを取得した社債。機関投資家が投資対象とできる水準とされる)を発行。長期負債は6月末時点で約1,100億ドル(前年比131%増)となった。
Microsoftは2024年以降に新規の社債発行はないが、大規模な長期データセンターリースを締結しており、会計上は負債として計上される。長期負債は6月末で前年比9%増の1,100億ドルだ。
伝統的な社債に加え、オフバランスのパートナーシップ構造(資産や負債を自社のバランスシート=貸借対照表に計上せず、合弁事業や特別目的会社を通じて調達する手法)も台頭している。Metaはブラックロックとテキサス州エルパソに約140億ドル規模のデータセンターキャンパスを建設する合弁事業を組成。ブラックロックが80%、Metaが20%を出資し、MetaがキャンパスをMetaが賃借する形をとることで、Metaの初期資本負担を圧縮している。またMetaはBlue Owl Capitalとともにルイジアナ州の「Hyperion」データセンターでも合弁を組んでいる。
NvidiaはウォールストリートのパートナーとともにAIインフラ向けに5,000億ドルの第三者資本を動員するファイナンスプラットフォームを設立。BroadcomもApolloおよびBlackstoneとAIインフラ向けの資金調達プラットフォームを組成している。
格付け機関が見る「2〜3年後」のリスク
S&P GlobalのアナリストNaveen Sarma氏は、「レバレッジが悪化すれば信用の質が下がり、負債調達コストが上昇する」と指摘する。同氏は現時点での各社の格付けを以下のように示している。
| 企業 | S&P格付け |
|---|---|
| Microsoft | AAA |
| Alphabet | AA+ |
| Amazon | AA |
| Meta | AA- |
| Oracle | BBB-(2026年7月に格下げ) |
Oracleは5四半期連続でFCFがマイナスであり、S&Pは2026年7月に格付けを投資適格の最低ランクに引き下げた。ハイパースケーラー4社は現時点ではいずれも高水準の格付けを維持しているが、Oracleの事例は「支出過多が現実の格下げに直結する」先例として市場関係者に注視されている。
Moody'sも最近のレポートで、ハイパースケーラーのAI投資が「前例のない水準の投資と資本調達」により「信用の質を脅かしている」と警告している。
S&PのアナリストDavid Tsui氏は、「定性面と定量的な信用指標の両方を追っているが、定量面は明らかに悪化している」と語る。「今日はまだ余裕があっても、2〜3年先を見ると格下げの閾値を超えている可能性がある。そうなった時点で格下げのシグナルを出す」と述べた。
重要なのは、この発言が現時点での格下げ警告ではなく、現行ペースの支出が続いた場合の2〜3年後のシナリオに言及したものである点だ。各社はいまなおトリプルA〜ダブルA級の高格付けを維持しており、足元の信用力は依然として高い。
Tsui氏が懸念するのは、capexの増加ペースが収益・利益の成長を上回り続けることだ。ウォール街はAI投資のリターンが本格化するタイミングを2028年ごろと広く見込んでいる。Sarma氏は「もしその変曲点が来ず、各社が今のペースの支出を続けるなら、より深刻な信用問題が生じる」と述べた。
投資家が本当に問うべき問い
Mizuho SecuritiesのインターネットアナリストLloyd Walmsley氏は現時点では過度に悲観していない。「問題は資金調達の方法ではなく、支出に対するリターンだ」と述べ、Metaが余剰計算能力をAnthropicやOpenAIなど他のAIラボに貸し出す形で収益化できるかどうかが鍵だと指摘する。
「短期的に、この計算能力でリターンを生み出せることを投資家に示すことが不可欠だ」とWalmsley氏は言う。
同氏の視点を敷衍すれば、焦点は「負債が増えているか」ではなく「その負債を正当化できるリターンが見えているか」だ。社債発行やオフバランス調達の拡大は、資本市場が各社の返済能力を信認しているからこそ成立している。問われているのはその信認がいつまで続くか、そして2028年とされるAIリターンの変曲点が本当に訪れるかどうかである。格付け機関が「2〜3年後」と時間軸を明示している以上、次の決算サイクルで各社が示すROI(投資対効果)の手応えが、信用力の趨勢を左右する最大の判断材料となる。
詳細はBig Tech's massive AI spending is putting one of its longtime strengths to the testを参照していただきたい。