8月29日、CNBCが「Op-ed: Salesforce just revealed the next battleground in AI」と題した記事を公開した。この記事では、SalesforceのQ2決算を機に「AIの次の戦場はモデルではなくデータ」という構造的な権力移動について詳しく紹介されている。
「SaaSpocalypse」は間違った問いだった
過去1年間、市場はAIに関して誤った問いを立て続け、ソフトウェア株の時価総額から約2兆ドルを蒸発させた。この現象は一部で「SaaSpocalypse(SaaSの黙示録)」と呼ばれており、AIエージェントの台頭によってSaaS企業が軒並み不要になるという悲観論が市場に広がったことを指す。その問いとは「AIエージェントがこのソフトウェアの仕事を代替できるか?」というものだ。
筆者らは、正しい問いはこうだと主張する。「AIエージェントが機能するために不可欠な何かを、この企業は持っているか?」
Salesforceが今回の決算で明らかにしたのは、まさにその問いへの答えだ。
モデルは「コモディティ」になりつつある
フロンティアLLM(大規模言語モデル)は数か月おきに互いを追い抜き合い、性能は向上しているが同時に交換可能にもなりつつある。さらに、中国産のオープンソースモデルや有力な競合の台頭により、「生の知性」のコストは急速に下落している。
経済学の基本原理として、あるインプットが安価・豊富になれば、価値はその「希少な補完財」へと移行する。AIにとって希少な補完財とは何か。筆者らの答えは信頼性の高い独自データだ。
顧客との商談を成立させるAIエージェントであっても、顧客情報の参照先、インタラクションのログ先、契約の保存先が必要になる。Wells Fargoのアナリストが指摘するように「知性のコストが下がれば、既存データの価値が上がる」。
Salesforceの決算が示すフライホイール
Salesforceは世界最大級のエンタープライズ顧客データのリポジトリの一つだ。今四半期の主な数字を並べると:
- Data 360が取り込んだ顧客レコード:104兆件(前年比355%増)
- Agentforceが処理したエージェント作業:32億ユニット(前四半期比ほぼ2倍)
- AI・データ部門のARR(年間経常収益):39億ドル(1年でほぼ3倍)
- Agentforce単体のARR:ローンチから18か月で1億ドル→15億ドル超(前年比240%増)
- 非GAAP営業利益率:34.1%
- 調整後EPS:5.90ドル(コンセンサス約3.27ドルを約1.8倍上回る水準)
- 売上高:113.5億ドル(前年比11%増)
- 通期ガイダンス:最大464億ドルに引き上げ
この決算を受け、Salesforce株は翌日20%以上上昇した。
筆者らが強調するのは「エージェントが仕事を生み出し、仕事がデータを生み出し、データがモートを深め、次世代エージェントをより価値あるものにする」というフライホイール構造だ。
最も雄弁な証拠:トップAI企業がSalesforceを使っている
もしAIエージェントがSalesforceなしで動けるなら、フロンティアAIラボはSalesforceを迂回(ディスインターミディエート)しているはずだ。実態は逆で、トップ10のAI企業のうち9社がSalesforceとSlackを利用しており、その合計支出は前年比435%増となっている。
さらにAnthropicとの戦略的パートナーシップが発表された。両社はこの協業を「Claudeforce」と称しており、AnthropicのAIモデル「Claude」とSalesforceのプラットフォームを深く統合するものだ。BenioffはCNBCでこう述べた。
「世界No.1のAIであるAnthropicと、世界No.1のCRMであるSalesforceが一緒になった」
そしてBenioffは「最強のモデルを作っている企業たちが、Salesforceに依存している。彼らはCRMを置き換えるのではなく、CRMに依存する」と断言。この確信を背景に、同社は250億ドルの自社株買い——同社史上最大——を発表した。
「データを持つ者」が勝つ構造
筆者らは、この論理はSalesforceだけに当てはまるわけではないと指摘する。AIエージェントにとって価値ある独自データを持つソフトウェア企業は恩恵を受ける一方、機能性以外に顧客粘着性を持たない企業は苦境に陥る可能性がある。財務体質も重要で、フリーキャッシュフローが潤沢な企業はAIシフトへの再投資余地があるが、負債の重い企業には難しい。
AIエコノミーにおける権力の方向性はますます明確になりつつある。知性を製造する側から、知性が機能するために必要な希少資産を所有する側へ。
本稿の著者は、Yale School of ManagementのJeffrey Sonnenfeld教授、Yale Chief Executive Leadership InstituteのSteven Tian研究ディレクター、およびStephen Henriques上席研究員の3名である。
詳細はOp-ed: Salesforce just revealed the next battleground in AIを参照していただきたい。