8月27日、Sarah Amslerが「Stop blaming AI for layoffs」と題した記事を公開した。レイオフの原因をAIに帰属させる企業の言説は実態とかけ離れており、その虚偽の説明がCIO自身の信頼と組織の健全性を損なう——という警告が、記事の核心にある。
「AIのせい」という説明がCIOの信頼を潰す
Amsler(TechTarget・ITストラテジーチーム上席編集長)が最も強く訴えるのは、「AIのせいでレイオフした」という説明が、CIO自身のキャリアと組織の信頼基盤を傷つけるという点だ。
社員はその嘘を見抜く。不信感は優秀な人材の離職を招き、ブランド毀損や投資家離れにつながる。AI代替のストーリーが破綻したとき、責任を取らされるのはCIO本人になる。その後の採用活動にも支障が出る。信頼の失墜は、一度の発表で積み上がり、取り返しがつかなくなる。
問題は、こうした「便利な説明」を使いたくなる構造的な誘因が企業側に存在することだ。なぜ経営者はAIを言い訳にするのか——その背景を理解するには、現在のレイオフの実態から見ていく必要がある。
「AIのせいでクビ」は本当か
2026年、テック企業のレイオフは12万7,000件超に上る(Layoffs.fyi調べ)。そのうち9万7,000件以上がAI関連として分類されている——AI投資の原資確保、AIによる人員代替、またはAI主導の市場変動への対応、といった理由だ。
しかしAmslerはこう問い返す。「本当にそうなのか?」
TechTargetが今夏に開催したアドバイザリーボード会議では、複数のCIOやアナリストに「AIに置き換えるためにレイオフを実施したか」と質問した。回答の大多数は「ノー」だった。
ServiceNowの事例が示すもの
ServiceNowでは、サービスデスク業務の90%が現在自律型AIで運用されている。だが同社のCDIO(最高デジタル情報責任者)Kellie Romackによれば、AIエージェントに置き換えられた役割の85%の人材は再スキル習得・再教育を経て別のポジションに異動したという。なお、CDIOはCIOよりもデジタルトランスフォーメーションの実行に特化した役職であり、AI導入の最前線を担うことが多い。
この数字は重要だ。「AI導入=人員削減」という図式が必ずしも成立しないことを、実際の運用規模で示している。AIの活用が進んでいる組織であっても、人材を切り捨てるのではなく再配置するという選択肢が機能している。それでも多くの企業がAIを理由にレイオフを説明するのはなぜか——そこには別の動機がある。
企業がAIを「便利な言い訳」にする3つの本音
Amslerは、AIを理由にしたレイオフの裏に潜む実際の動機を3点に整理している。
- パンデミック期の過剰採用の修正:多くの企業がコロナ禍に人員を急拡大し、その巻き戻しが今も続いている。
- AIインフラへの投資原資の確保:データセンターの建設・維持には数十億ドル規模のコストがかかる。人件費削減はその一手段だ。
- ウォール街・投資家への配慮:AI早期導入企業は株価が上がりやすい。コスト削減の数字も投資家受けがよく、たとえ人件費削減分が全体の「ごく一部」に過ぎなくても、説明材料として使われる。
これらの動機はいずれも経営判断として理解できる面がある。問題は、それを「AIのせい」という一言で包んで社員や株主に説明することだ。その誤魔化しが、冒頭で述べた信頼の崩壊につながる。
Amslerの処方箋:正直に言え
Amslerが提唱するのはシンプルな原則だ——正直に言え、ということ。
- パンデミック期の過剰採用を是正している、と言え。
- 成長見通しの未達で構造改革中だ、と言え。
- AIインフラや事業優先度の見直しのためにリソースをシフトしている、と言え。
透明な説明は短期的には痛みを伴うが、長期的には組織の信頼を守る。CIOが発信すべきメッセージの質が、組織文化そのものを左右するというのがAmslerの立場だ。
「AIはまだ人間の代替には早い」
Amslerはメディア業界の内側からの観察として、「AIは本番環境に耐えられない」とも述べる。多くの出版社がAIでライターを代替しようとしたが、AIは誤りを犯し、人間の監視なしには機能しない。AIモデルのインシデント事例が示すように、制御を外れるリスクも現実に存在する。
AIは人間を補助するツールとして設計されたものであり、共存の余地は十分にある。共感、判断力、機敏さ、適応力、好奇心といった領域では、人間はまだAIに優る——というのがAmslerの結論だ。「AIのせい」という言い訳が通じなくなる日は、思いのほか早く来るかもしれない。
詳細はStop blaming AI for layoffsを参照していただきたい。