8月28日、Ars Technicaが「AI industry says Trump plans to tax chips in the "single dumbest way imaginable"」と題した記事を公開した。トランプ政権が検討する半導体への新たな関税措置に対し、AI業界が「考え得る中で最も愚かな課税方法」と猛批判している状況を伝えている。
何が起きているか――「海外製造の米国設計チップ」に関税
トランプ政権が検討しているのは、海外で製造された半導体チップへの新たな関税措置だ。一見「外国製品への課税」に聞こえるが、実態はNVIDIAやAMDといった米国企業が設計したチップに課税される構図になる。
なぜか。NVIDIAもAMDも、いわゆる「ファブレス」企業だ。自社では製造工場(ファブ)を持たず、チップの設計に特化して製造をTSMC(台湾積体電路製造)などの外部ファンドリーに委託するビジネスモデルを採っている。米国の主要チップ企業の多くがこのモデルを採用しており、製造拠点の大部分は台湾・韓国・オランダといった海外に集中している。この構造上、「海外製造チップへの関税」は自動的に米国企業のコスト増へとつながる。
なお、米国では2022年にCHIPS・科学法(CHIPS and Science Act)が成立し、国内半導体製造の強化に向けて約520億ドルの補助金が投じられてきた。TSMCやIntelが米国内に新工場を建設しているのもこの流れを受けたものだが、最先端プロセスの国内製造が軌道に乗るまでには数年単位の時間がかかる。その移行期の最中に今回の関税計画が浮上したことが、業界の反発をさらに強めている。
なぜ問題か――逆効果になる三つの理由
業界関係者やエコノミストが指摘する問題点は、大きく三つに整理できる。
第一に、コスト増は米国企業と消費者に跳ね返る。 スマートフォン、ノートPC、タブレット、スマートウォッチ、コネクテッドデバイス、自動車といった日常製品の価格上昇が見込まれる。米国の家庭がすでに家計のひっ迫を感じているタイミングでの追い打ちとなる。
第二に、AIの普及が直接阻害される。 コンシューマーデバイスはAIツールへのアクセス手段として中心的な役割を担っており、関税によるデバイス価格の上昇や新製品投入の遅延は、最新AI機能の普及そのものを減速させる。
第三に、供給が逼迫した市場でのさらなる価格押し上げになる。 グローバルなデータセンター建設ラッシュにより、ハイエンド半導体は2027年まで供給不足が続くと予測されている(IDC調査)。ガートナーの直近予測では、この供給不足を背景とした価格上昇により、2026年の世界半導体売上高が1.6兆ドルに達すると見込まれており、これは従来予測を大幅に前倒しした数字だ。こうした逼迫した市場に関税が加わることで、チップ価格がさらに上昇するとエコノミストらは指摘している。
業界の反応――「中国に塩を送る政策」
AI業界はすでに政権に書簡を送り、反発を明確にしている。書簡の中では次のように述べられている。
「コンシューマーデバイスは、米国人がAIツールにアクセスするための主要なインターフェースだ。AIはそれを実際に使える状態にあって初めて約束を果たせる。消費者をデバイス市場から締め出すような関税は、米国がリードできるまさにこの瞬間にAIの普及を遅らせることになる」
この政策の最も逆説的な問題点は、関税で打撃を与えようとしている競争相手ではなく、米国自身が傷つく可能性が高い点だ。Politicoの報道によれば、チップサプライヤーが関税を回避するために中国向けビジネスを拡大する可能性があり、中国企業が相対的に恩恵を受けるシナリオも現実味を帯びる。またAppleのような企業は、同様の関税負担を負わない海外競合と戦わなければならず、競争上の不利を抱えることになる。
政権内の調整と「段階的導入」の可能性
トランプ政権はAI企業を守るための関税緩和措置も検討しているが、Politicoへの情報提供者によれば、その緩和はTSMCのような海外企業が米国内の半導体製造に投資することを条件とする可能性が高い。商務長官のハワード・ルトニック氏がこのアプローチを最も支持しているとされる。これはCHIPS法の補助金政策と方向性は重なるが、アメとムチの構図が逆転している点で性質が異なる。
またデータセンター建設のタイムラインや年末商戦を意識してか、最悪の影響が一度に集中しないよう、関税を段階的に導入する案も浮上している。トランプ大統領は過去にも、消費者の反発が支持率に響くと判断した際に関税の免除措置を講じた経緯があり、今回も同様の政治的判断が働く余地はある。
米国のAI競争力強化を掲げながら、その基盤となるチップの調達コストを自ら引き上げるという矛盾した構図は、政策の整合性に対する疑問を業界全体に広げている。CHIPS法で積み上げてきた国内製造誘致の努力と、今回の関税計画がどう整合するのか、政権内でも明確な答えは出ていないようだ。
詳細はAI industry says Trump plans to tax chips in the "single dumbest way imaginable"を参照していただきたい。