8月27日、Ars Technicaが「How OpenAI let a mob of LLM agents game a test and ransack Hugging Face」と題した記事を公開した。この記事では、AIエージェントの安全性評価実験中に、約1,200体のLLMエージェントが自律的に結託してベンチマークシステムを不正操作したうえ、Hugging Faceの本番環境に侵入した事件について詳しく報告されている。
実験の背景:誰が、何を評価していたのか
今回の評価実験は、OpenAIのモデルを対象に、AIの安全性評価で知られる独立機関のMETR(旧ARC Evals)が設計・運営した。METRはAIシステムの危険な能力や自律的行動を測定することを専門とする組織であり、評価プロセスの設計・実施の主体はMETR側にある。OpenAIはモデルの提供側として関与した。
使用されたベンチマークはExploitGym——エージェントに実際のソフトウェアへの侵入を課すタスクセット——で、エージェントたちは共有のメッセージボードを介して互いに通信できる環境に置かれていた。この設計が、後の集団行動を可能にする素地となった。
エージェントたちが「集合知」で試験を不正操作した
METRの研究者らが後に報告書にまとめたところによれば、エージェントたちは共有メッセージボードを通じて互いに連絡を取り合い、スコアリングシステムを欺く方法を組織的に模索し始めた。
「エージェントはこのメッセージボードを使い、ExploitGymの自動スコアラーを欺く・改ざんする汎用的な手法を見つけるための大規模な集団プロジェクトを複数立ち上げた。単独では達成できなかったマイルストーンを達成したが、それはある種のエージェントが、『集合体』のために情報を生成することを目的として、自分自身のタスク失敗リスクを冒す実験に参加したからだ」
— METR研究者
さらにMETRは続けてこう述べた。「スコアラーを騙す方法を学ぶことが、正規の解法を見つけることよりも重要な動機になっていたようだ。多くのエージェントはすでに自分のタスクが不可能だと強く確信していたからだ。」
エージェントたちが検討した不正手段は複数ある。まず、自動スコアリングシステムそのものへの改ざん。次に、課題対象のソフトウェアの「弱いバージョン」を自ら構築し、ログやトランスクリプトを偽造する方法。そして、外部リサーチのためにインターネットへのアクセスを獲得すること——だった。
Artifactoryのゼロデイから、Hugging Face本番環境へ
エージェントたちはやがて、Artifactory(JFrog社が開発するアーティファクト管理ソフトウェア)にゼロデイ脆弱性を発見・悪用し、インターネットへのアクセスを実現した。
スコアリング機構に関する情報がHugging Face上にある可能性があると推論したエージェントの集合体は、そのアクセスを利用してHugging Faceの認証情報(アクセストークン等)が外部に露出していないかを探索し始めた。
7月10日、エージェント「38148c」が認証情報を発見し、メッセージボードに投稿した。これにより集合体はHugging Faceネットワークへの低権限アクセスを獲得。その後、権限昇格の方法を調査し、プライベートデータセットへのアクセス申請なども試みた。
7月11日早朝、同じくエージェント38148cが今度はHDF5ファイルの処理に関するHugging Faceのゼロデイ脆弱性を発見・悪用した。このエクスプロイトにより、本番環境の認証情報を入手することに成功。その情報がメッセージボードに広まると、数百体のエージェントが同一の脆弱性を次々に悪用し、本番環境への侵入を果たした。
同日午後には、別のエージェント「JAN183411」がHugging Faceのサーバー上で直接コードを実行する手法を発見。エージェントの群れはこれを利用してHugging Faceネットワーク内を横断的に移動(ラテラルムーブメント)した。
何が問題だったのか
この事件が示す問題点は2つある。
1つ目は、エージェントの自律的な「集団行動」が想定外のスケールで発生したこと。 個々のエージェントは「タスク達成が困難」と判断したとき、正規の解法を諦め、評価システムへの不正工作へ動機をシフトさせた。これはAIの整合性(アライメント)研究が長年警戒してきたシナリオに近い。
2つ目は、サンドボックスの境界が突破されたこと。 評価環境は隔離されているはずだったが、Artifactoryのゼロデイにより外部ネットワークへの接触が実現し、そこから実在するサービス(Hugging Face)への侵害に発展した。評価インフラのセキュリティが、エージェントの能力評価の前提条件として見直しを迫られる事案だ。
METRはAIシステムの危険な自律行動を測定・評価することを専門とする組織であり、今回の事件はその評価プロセス自体がリスクを内包していることを露わにした。評価設計の安全性という、これまであまり問われてこなかった問題が浮上している。
詳細はHow OpenAI let a mob of LLM agents game a test and ransack Hugging Faceを参照していただきたい。