8月26日、Mark Silvesterが「Diagrid Catalyst 2.0 Adds Durable and Verifiable Execution for AI Agents」と題した記事を公開した。AIエージェントが本番環境で長時間・多ステップの処理を担う場面が急増するなか、「途中で落ちたときどうするか」「何が起きたか証明できるか」という問題が現実的な課題として浮上している。Diagridが2026年7月28日に発表したCatalyst 2.0は、耐久実行(durable execution)と暗号的な実行証明という2つのアプローチでこの問題に正面から取り組む製品だ。
AIエージェントの処理が長期化・複雑化するほど、障害時の損失は大きくなる。複数のLLM呼び出しを経て終盤で失敗したワークフローを最初からやり直せば、API料金も処理時間もまるごと無駄になる。さらに、規制対応やガバナンスの観点から「エージェントが何をしたか」を事後に証明する要求も高まっており、単なる再実行の話にとどまらない。Catalyst 2.0はこの2点を一つの製品で解決しようとしている。
障害復旧:完了済みのモデル呼び出しを再実行しない
Catalyst 2.0が解決しようとしている障害パターンは、エンジニアなら身に覚えがあるはずだ。多ステップのエージェント処理が終盤に失敗し、チェックポイントがなければリトライ時に最初から全モデル呼び出しをやり直す羽目になる。APIの料金も時間もまるごと無駄になる。
DiagridはCatalystがモデル呼び出しとツール呼び出しを耐久ワークフローのアクティビティ(durable workflow activities)として表現すると説明している。処理が中断されても、完了済みのステップを繰り返さずに再開できる。既存のエージェントアプリケーションにDiagridパッケージを追加するだけで導入でき、クラウド・オンプレミス・エアギャップ環境のいずれにも対応する。
対応フレームワークは10種類を数える(以下は元記事に列挙されている主要なもの)。
- LangGraph / LangGraph Deep Agents
- Microsoft Agent Framework
- Google ADK
- Dapr Agents
- AWS Strands
- OpenAI Agents SDK
- Claude Managed Agents
- CrewAI
- Pydantic AI
SDKはPython(耐久エージェント構築用)のほか、ワークフローSDKとして.NET、Go、Java、JavaScript、Pythonをサポート。オープンソースのDapr 1.18 SDKではRustも含まれる。
署名チェーン:何が起きたかを暗号学的に証明する
Catalyst 2.0のより特徴的な機能が、Dapr 1.18に実装された実行履歴の暗号署名だ。
仕組みはこうだ。Daprがワークフロー履歴イベントをバッチでハッシュ化し、各ダイジェストを直前の署名にリンクしてチェーンを構成する。署名にはDaprサイドカーのSPIFFEベースのIDを使用する。ワークフロー状態のロード時にチェーンを検証するため、履歴の削除・並べ替え・改ざんを検出できる。さらに、Dapr Sentryのトラストアンカーを使って署名チャンクを検証できるため、生成元のアプリケーション外部でも履歴を検証可能だ。
Daprはこの機能を3つのケイパビリティとしてまとめている:Workflow History Signing、Workflow History Propagation、Workflow Attestation。後者2つはワークフローとサービス境界をまたいで検証済みの実行コンテキストを伝搬する。
導入時に注意すべき制約
この署名機能はデフォルトでは無効だ。有効化にはいくつかの条件がある。
WorkflowHistorySigningフィーチャーフラグを明示的に有効化する必要がある- mTLSが前提条件。mTLS無効の状態でsigning有効にするとdaprdの起動が拒否される
- 一方向の決定:既存の履歴への遡及署名はできない
- 実行中の未署名ワークフローに対してsigningを切り替えると検証エラーになる。既存の未署名ワークフローを完了またはパージしてから有効化する必要がある
Diagrid共同創設者兼CTOのYaron Schneider氏は、エージェントがツールを呼び出したり作業を委任したりする際に「何が起きたかの証明」が組織に必要だと述べている。
競合との立ち位置
耐久実行の選択肢はCatalystが初めてではない。LangGraph Persistenceはグラフのスーパーステップ境界でチェックポイントを記録し、TemporalやRestateはリプレイ・ジャーナルベースの実行を提供し、エージェントワークフローのホストも既に可能だ。
Catalystの差別化点は、単一のDaprベースの復旧・検証モデルを複数フレームワークにまたがって適用し、グラフ境界ではなく個別のモデル呼び出し・ツール呼び出しの粒度で耐久性を与える点にある。
性能・価格・注意点
DiagridはCatalystがオープンソースDaprの最大10倍のパフォーマンスを発揮し、数百万の並行エージェントワークフローをサポートすると主張している。ただし、この数値がスループット・毎秒ワークフロー開始数・レイテンシのいずれを指すのか、どのワークフロー・ハードウェア・Dapr構成での計測かは発表に記載がなく、独立した検証はできない。
価格は公式ページに掲載されており、無料クラウドティアから始まり、同時ワークフロー数で課金される専用クラウドプランや、オンプレミス・エアギャップ向けのEnterprise Server(個別見積もり)まで複数のオプションがある。
なお、暗号的な検証が保証するのは記録された履歴の完全性と出所であり、エージェントが正しい判断を下したこと、ツールが正確なデータを返したこと、外部副作用がすべてキャプチャされたことではない。冪等でないツールのリトライ処理、ストレージとレイテンシのオーバーヘッド、証明書ローテーション、オープンソースDaprと商用Catalystの機能分担なども実務上の検討事項として挙げられている。
採用事例として光学機器メーカーのZEISS Groupが挙げられており、同社のエンドツーエンドコアアプリケーションエンジニアリング責任者であるWendelin Niesl氏はCatalystを「急速に変化するAIモデルとフレームワークの環境において、依拠できる安定した基盤」と述べている。
詳細はDiagrid Catalyst 2.0 Adds Durable and Verifiable Execution for AI Agentsを参照していただきたい。