8月26日、TechTargetが「CIOs say data engineers, AI architects hardest roles to fill」と題した記事を公開した。この記事では、CIOたちが「データエンジニア」と「AIアーキテクト」を現在最も採用困難なITロールとして挙げている実態について詳しく紹介されている。
「データサイエンティスト神話」が採用を歪めている
PagerDutyのCIO Eric Johnsonは、AIインフラへの深い専門知識を持つ人材、特にデータエンジニアリングやデータサイエンス、BIエンジニアリングの経験者が見つかりにくいと指摘する。「ベストプラクティスや、スケールでの経験を持つ人材が特に少ない」と語る。
より核心を突いているのは、SutherlandのCIO兼チーフデジタルオフィサーであるDoug Gilbertの発言だ。
「CIOはデータサイエンティストの扱いを間違えている。データサイエンティストがデータの問題を魔法のように解決してくれると思い込んで、そこに過剰投資してしまう。AIが失敗するとき、その原因は多くの場合、根本にあるデータがゴミだからだ。だから今、最も採用が難しく、かつ最も重要なロールはデータエンジニアだ。質の悪いデータはAIの幻覚率(ハルシネーション率)を上げ、悪い判断につながる。」
— Doug Gilbert, CIO兼CDO, Sutherland
なお、ここで言う「ハルシネーション率」とは、AIモデルが事実と異なる情報を自信を持って出力してしまう現象(幻覚)の発生頻度を指す。データ品質が低いほど、この問題が顕著になる。
つまり、AIプロジェクトの成否を握るのはモデルではなくデータ品質であり、それを担うデータエンジニアの採用こそが最重要課題だという主張だ。さらにGilbertは「データツールはここ数年で爆発的に増えた。候補者がそのすべてをキャッチアップできているか、変化のスピードについていける姿勢があるかを見極めること自体が難しい」と付け加える。
AIアーキテクトが不足している本質的な理由
Rimini StreetのCIO Joe Locandroは、AIアーキテクトが不足している理由をより構造的に説明する。
「データアナリティクスの経験がある人間の多くが自分をAIの専門家だと思っているが、実態ははるかに複雑で変化も速い。多くの組織が、エコシステムとアーキテクチャをAI・エージェント・オーケストレーション層の導入にどう対応させればいいかで詰まっている。コードを書いてエージェントを作る部分は誰でもできるが、エコシステム全体をアーキテクティングできる人間がいない。」
— Joe Locandro, CIO, Rimini Street
ここで言う「オーケストレーション層」とは、複数のAIエージェントが連携して動作する仕組みを管理・調整するレイヤーのことだ。数千のエージェントが24時間稼働し、さらにサードパーティから外部エージェントが流入してくる状況で、それをいかにセキュアに管理・統治するか——この分野のアーキテクチャは、Locandroの言葉を借りれば「まだ誰もきちんとした規律を確立できていない新しいフィールド」だ。
技術力だけでは足りない:ビジネスとの橋渡し役の不足
DeVry UniversityのCIO Chris Campbellや、Southern Glazer's Beverage Co.のCIO Steve Bronsonは別の角度から課題を指摘する。「深い技術知識と、ビジネス課題を本番稼働可能なソリューションに翻訳する能力を兼ね備えた人材」こそが最も見つかりにくい、という主張だ。
SedgwickのCIO Sean Safiehは、特に保険のような規制産業において、「AIと機械学習を理解しつつ、エンタープライズスケールのシステムを設計でき、かつセキュリティ原則も押さえた人材」が必要だと語る。また、クラウドネイティブ環境とレガシー環境の両方を扱える「ハイブリッド人材」は今後ますます希少になるとも指摘する。
ServiceNowのチーフデジタル情報責任者Kellie Romackの表現が最も印象的だ。
「今採用すべきは、トランスフォーメーションリーダーだ。飛行機を操縦しながら、その飛行機を改造して、6品コースのディナーをサーブするような仕事だ。」
エンジニアへの示唆
各CIOの発言を横断すると、市場で評価される人材像が浮かび上がる。
- データエンジニアリングの深い実務経験(特にスケールでの経験)
- AIエコシステム全体のアーキテクティング能力(エージェント単体の実装ではなく)
- レガシーとクラウドネイティブの両世界への対応力
- 技術をビジネス成果に翻訳する能力
Campbellが「技術スキルは教えられるが、組織の文脈や信頼関係は習得が難しい」と述べているように、社内人材のリスキリングを競争優位と捉えるCIOも増えている。採用市場での争奪戦に乗るだけが戦略ではない、という見方だ。
※編集部の考察:データエンジニア不足は日本でも無縁ではない。DX推進を掲げる企業が増える一方、データ基盤の設計・運用を担える人材は慢性的に不足しており、外部採用が困難な中小・中堅企業では、既存エンジニアのリスキリングが現実的な打ち手として注目されている。CIOたちの発言は、採用戦略だけでなく人材育成の優先順位を再考する契機としても読める。
詳細はCIOs say data engineers, AI architects hardest roles to fillを参照していただきたい。