8月25日、Digital Trendsが「Australia's music charts just banned AI made songs, and it's a big deal」と題した記事を公開した。AIで作られた楽曲がチャート1位を獲得し、業界が沈黙を破った——オーストラリアの音楽業界団体ARIAが、AI生成楽曲を公式チャートの資格要件から全面的に排除するルールを導入した。ストリーミング全盛期において「チャートに何を載せるか」は単なる集計の問題ではなく、クリエイターへの報酬・評価・権利保護の根幹に関わる。この決定が「大きな出来事」と報じられるゆえんはそこにある。
発端はAI補助で作られたマドンナのカバー曲
今回の規制導入を後押ししたのは、オーストラリアのDJ Josh Fawazの一件だ。FawazはAIを活用してマドンナの「Like A Prayer」をカバー。この楽曲はARIAダンスチャートで1位、総合チャートでも2位を記録し、Spotifyで4,800万回以上再生された。問題は、Fawazが生成AIを使用したことを当初クレジットに明示しておらず、ユーザーから指摘されて後から追記したという点だ。
この炎上が、業界を「話し合い」から「ルール制定」へと動かした。チャートへのランクインは単なる順位づけではなく、ロイヤリティ分配や放送局の選曲、さらにはARIA賞の候補資格にまで直結する。AI生成楽曲がその仕組みに乗り込んでくることへの危機感が、今回の規制を生んだ背景にある。
ARIAとは何か、そしてチャートが持つ意味
ARIA(Australian Recording Industry Association)は、オーストラリアのレコード産業を代表する業界団体であり、公式音楽チャートの管理・集計や、国内最大の音楽賞であるARIA Awardsの運営を担う。同チャートはストリーミング再生数・デジタル販売・フィジカル販売を統合して算出されており、業界標準として放送局やプレイリスト編成にも参照される。
ストリーミング時代においてチャートの影響力は増している。再生数がそのままチャート順位に反映され、順位が上がればさらに露出が増えるという循環構造の中で、AI生成楽曲が人間のアーティストと同じ土俵に立つことへの懸念は、単なる感情論ではなく経済的・構造的な問題でもある。
ARIAが定めた「人間が作った」の基準
8月下旬よりARIAは、公式チャートにランクインするすべての楽曲に対し、「実質的に人間が制作したもの(substantially human made)」であることを条件として課した。
ただし、AIツールの利用が全面禁止というわけではない。具体的には以下の使い方は許容される。
- マスタリング処理へのAI活用
- ドラムマシンの使用
- オートチューン処理
一方で、楽曲の作詞・作曲および主要ボーカルとメイン楽器の演奏は人間が担う必要がある。これを超えて、楽曲が全面的にAI生成と判断された場合、チャートへのランクインは認められない。
さらに、事後的に「ほぼAI製」と判明した場合はチャート順位の遡及修正が行われる。1位を獲得していた場合、ARIAは受賞の返還を求める可能性もあるという。アーティスト側には異議申し立ての機会が設けられているため、完全に一方的な運用ではない。
なお「実質的に人間が制作した」という基準の判定をどう運用するか——とくに部分的にAIを活用した楽曲をどこで線引きするか——は、実効性の面で今後の大きな課題として残る。
業界内の温度差
規制に対する反応は一枚岩ではない。オーストラリアのバンドPeking Dukは、2014年のヒット曲「High」をAIで再録音してオーストラリアのラジオ局向けに送りつけ、SNSでこの状況を公開した。これはAI審査体制の不備を突く皮肉・批判的なパフォーマンスとして受け取ることもできる行動だ。
一方、同バンドのメンバーAdam Hydeは、AI生成音楽を「人生から人間的体験を取り除く行為」と表現している。Peking Dukとしての行動と個人としての発言が必ずしも一致しているわけではなく、バンド自身がこの問題に対して複雑な立場を持っていることがうかがえる。規制の是非をめぐる業界内の議論が、まだ整理されていない段階にあることを示す一例といえる。
世界的な規制の流れ
オーストラリアだけの動きではない。スウェーデンも2025年初め、AI生成楽曲を自国の公式チャートから排除するルールを導入しており、同様の動きが各国に広がりつつある。
国内の政治レベルでも後押しがある。オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相はすでに、クリエイターに対してAIから「可能な限り強力な保護」を与えると明言しており、今回のチャート規制は政府レベルの方針とも一致している。
AIと著作権・クリエイター保護をめぐる議論は音楽業界にとどまらないが、今回のARIAの動きは、業界団体が自主規制という形で具体的な線引きを行った初期事例の一つとなる。方向性としては明確であり、今後ほかの国・地域の業界団体がどう追随するかが注目される。
詳細はAustralia's music charts just banned AI made songs, and it's a big dealを参照していただきたい。