8月25日、CNBCが「SEC reportedly subpoenas Wall Street banks over AI hedge fund Situational Awareness's near collapse」と題した記事を公開した。元OpenAI研究者が創業したAI特化型ヘッジファンドが、高レバレッジのAI関連株集中投資によってわずか数週間で資産の大半を失い、米証券取引委員会(SEC)がウォール街大手銀行へ召喚状を発行する事態へと発展した経緯を報じている。
なぜAI研究者が運営するファンドが7週間で壊滅したのか
問題のヘッジファンド「Situational Awareness」は、元OpenAI研究者のLeopold Aschenbrennerが率いるAI特化型ファンドだ。Aschenbrennerは2024年にOpenAIを退社後、AIの長期的な安全保障リスクを論じた著名レポート『Situational Awareness: The Decade Ahead』を発表した人物であり、ファンド名はこのレポートに由来する。
7月末のテック株売り崩しを受け、同ファンドの運用資産は約450億ドルから約100億ドルへと急落した。77%超という損失率は、まさにこの数値から逆算される。
崩壊の直接的な引き金となったのは、**最大400%**とも報じられた極めて高いレバレッジ(借入による投資倍率)だ。SK HynixやCoreWeaveといったAIインフラ関連銘柄に大規模な集中投資をしていたが、相場の急落で損失が膨らみ、プライムブローカー(証券会社)から相次いでマージンコール(追証)を受けた。その結果、保有ポジションの大部分を強制的に解消せざるを得なくなった。
その売却先となったのが、Ken Griffinが率いる大手マルチストラテジー・ヘッジファンドCitadelだ。Citadelは当該ポジションを約10%のディスカウントで買い取った。Griffinは8月22日付の投資家向けレターで、取得したSituational Awarenessポートフォリオのリスクの約80%をすでに売却済みと述べている。なお、SK HynixとCoreWeaveは売り崩し後に価格を回復している。
SECが動いた:Goldman、JPモルガン、シティ、BofAに召喚状
米証券取引委員会(SEC)は現在、Goldman Sachs、JP Morgan、Citigroup、Bank of Americaの4行に対して召喚状を発行し、Situational Awarenessとの取引内容、レバレッジの利用状況、そして両者間のコミュニケーション記録の提出を求めている。Reutersが事情に詳しい関係者の話として報じた。
ただし、SECの情報提供要求は不正行為の認定ではない。同ファンド自身も声明を出しており、以下のように述べている。
「プロフィールが高く、大きなリターンを生んでいるか、あるいは特に劇的なドローダウン(資産の下落)を経験したファンドを規制当局が詳しく審査するのは、当然のことだ。我々は規制対象の事業体であり、いかなる規制上の要請にも全面的に協力する。」
Goldman SachsとJP Morganはコメントを拒否。本件はニューヨーク・タイムズが最初に報じた。
AIブームを支えるレバレッジへの警戒感
このケースが業界で注目されている背景には、AIインフラへの投資ブームとレバレッジの深い結びつきがある。2025年以降、データセンター・GPU関連インフラへの資金流入が急拡大する中、Situational Awarenessのようにレバレッジを活用してAI関連銘柄に集中投資するファンドが増加してきた。CNBCは8月14日付の関連記事でも、AIブームが広範にレバレッジによって支えられているリスクを指摘している。Situational Awarenessのケースは、そのリスクが現実化した具体的な事例として位置づけられる。
※編集部の考察:Aschenbrennerがレポートで論じた「AIの指数関数的進化への備え」という思想が、ファンド運営においては過剰なコンビクション(確信)ポジションへのバイアスとして作用した可能性も否定できない。研究者としての知見と、ヘッジファンド運営に求められるリスク管理規律は必ずしも一致しないことを示す事例とも読める。
今回のSEC調査が実際の制裁措置につながるかは不明で、規制当局の調査は措置なく終わることも多い。ただし、AIと金融リスクの交差点で起きた規模の大きな出来事として、今後の規制議論——特にAI関連銘柄へのレバレッジ規制や、プライムブローカーによるリスク審査の厳格化をめぐる議論——に影響を与える可能性は高い。
詳細はSEC reportedly subpoenas Wall Street banks over AI hedge fund Situational Awareness's near collapseを参照していただきたい。