8月26日、The Decoderが「Russia used ChatGPT to run a covert influence campaign pushing pro-Kremlin narratives across the West」と題した記事を公開した。この記事では、ロシアがChatGPTを悪用して親クレムリン的な情報を西側諸国に拡散させた秘密の影響工作をOpenAIが摘発した件について詳しく紹介されている。
ChatGPTでSNS投稿を自動生成、偽シンクタンクを看板に
OpenAIが摘発したこの工作の核心は、「International Burke Institute(IBI)」というイスラエルに拠点を置くとされる架空のシンクタンクだ。IBIは「主権指数(Sovereignty Index)」なるランキングを公開しており、ロシアを高く評価する一方で西側諸国を低く評価するよう設計されていた。たとえば、ロシア軍はアメリカ軍より0.5ポイント高いスコアを得ている。
IBIが2025年9月〜2026年5月に公開した専門家関連記事36本のうち34本は他ソースからの盗用であることをOpenAIは確認した。ケンブリッジ大学出版の論文はノッティンガム大学教授の著作として偽装され、移民政策研究所の記事はオーストラリアの食品化学の教授の名義に差し替えられていた。いずれも実在の人物を利用した虚偽クレジットである。
工作者はVPNでロシアからChatGPTにアクセスし、「ロシア語起源を示す言語的手がかりを隠すよう」 とChatGPTに指示していた。OpenAIの報告によれば、ChatGPTはこうした指示の一部には応じたものの、明示的な偽情報の生成や身元詐称を直接求める指示については拒否したケースも確認されている。生成されたコンテンツはX(旧Twitter)、LinkedIn、Facebook、Substack、Telegramにまたがって投稿された。
OpenAIはどのように摘発したか
OpenAIは自社プラットフォーム上のアクセスパターンや使用状況の分析を通じてこの工作を検知した。具体的には、VPN経由でロシアから繰り返しアクセスされていたアカウント群の挙動、および複数アカウントにわたって類似した指示文が送信されているパターンが端緒となった。アカウント間で共通するプロンプト構造と、生成コンテンツが特定のTelegramチャンネルや偽装シンクタンクのウェブサイトに組織的に流通している事実を突き合わせることで、単一の工作者グループによる統制された活動であると特定した。
ドイツ語チャンネル「Lahme Ente」、複数国向けのロゴ制作も
工作の一翼を担ったのが、「Lahme Ente(ラーメ・エンテ)=直訳で"足の悪いアヒル"、英語の"lame duck"に相当するドイツ語Telegramチャンネルだ。ウクライナ、EU、ドイツ連邦政府を批判しながらロシアとの関係強化を訴えるコンテンツを発信していた。
別の工作者はドイツ、米国、フランス、ポーランド、トルコをターゲットとした約12のTelegramチャンネル向けのロゴを作成し、定期的にチャンネル活動のロシア語サマリーを生成するようChatGPTに依頼していた。
規模は小さいが、拡張可能なインフラ
個別投稿のビュー数は少なく、IBI公式アカウントのフォロワー数も低水準だった。ただし、関連Telegramチャンネルはそれぞれ1万〜2万フォロワーを獲得していた。
OpenAIはこの工作をBrookings Breakout Scale(影響工作の波及規模を段階的に評価する指標。カテゴリ1が最小、カテゴリ6が最大)で6段階中カテゴリ3と評価した。複数プラットフォームへの拡散と実ユーザーへのリーチの兆候が確認されたことを意味する。現時点での到達範囲は限定的だが、OpenAIはこの工作の背後にある精緻なインフラが将来的に拡張可能だった点を強調している。
繰り返されるロシアのAI悪用、摘発はOpenAIが見える範囲のみ
OpenAIはこれ以前にも複数のロシアの影響工作を摘発している。
- 2024年6月:「Bad Grammar」と呼ばれるロシアのネットワークを摘発。Telegramでロシア・ウクライナ・バルト三国に関する政治的コメントを生成していた。
- 2025年:「Operation Helgoland Bite(ヘルゴランド・バイト作戦)」を特定。ドイツの2025年連邦選挙を前にChatGPTでドイツ語コンテンツを生成し、米国・NATOを攻撃しつつAfD(ドイツのための選択肢)を支持するよう誘導していた。
これらはOpenAIが自社プラットフォーム上で捕捉した事例に過ぎない。中国のAIプロバイダーやオープンウェイトモデル(公開されたモデルの重みを利用して誰でも自由に実行できるモデル)が広く利用可能な現状を踏まえると、AIを活用した影響工作の実際の規模はこれよりはるかに大きい可能性があるとOpenAIは指摘する。
詳細はRussia used ChatGPT to run a covert influence campaign pushing pro-Kremlin narratives across the Westを参照していただきたい。