8月25日、Dataconomyが「OpenAI urges California to enhance AI safety law for better oversight」と題した記事を公開した。注目すべきは、OpenAIが自ら成立に関与したカリフォルニア州のAI安全法「SB 53」のさらなる強化をあらためて州に働きかけているという逆説的な構図だ。規制に抵抗する企業が多い中、OpenAIは規制を自ら設計し、業界標準の形成に先手を打つ戦略をとっている。
自ら推した法律の強化を求めるOpenAI
OpenAIがカリフォルニア州に対し、同社自身が成立を後押ししたSB 53(フロンティアAI透明性法、Transparency in Frontier Artificial Intelligence Act)の改正を求めている。同社はLinkedInのGlobal Affairsチーム名義の投稿でその主張を展開した。
SB 53は2025年9月にGavin Newsom知事が署名し施行された法律で、現行の規定は主に以下の2点だ。
- 大規模なフロンティアAI開発者に対し、安全フレームワークの公開を義務付け
- 重大な安全インシデントについて正式な報告チャネルを設置
この法律はカリフォルニア州の公共コンピューティングコンソーシアム「CalCompute」の設立も含んでいる。CalComputeは、スタートアップや研究機関など民間大手以外のアクターが高性能コンピューティングリソースにアクセスできるよう州が整備する共有基盤構想で、AI開発の民主化と安全基準の浸透を同時に狙う仕組みだ。加えて、技術進歩への対応を目的とした年次レビューの義務化も盛り込まれている。
OpenAIが求める追加条項
OpenAIが今回求めているのは、既存の法律に以下の要件を加えることだ。
- フロンティアAIモデルのトレーニング中・評価中の監視義務化:セキュリティ侵害や機密情報への不正アクセスを検知するため
- AIモデル開発プロセス全体を通じたサイバーセキュリティ強化:システムが内部のセーフガードを迂回するのを防ぐ
要するに、「公開後の透明性」だけでなく、開発段階からのモニタリングを法的に義務付けろという主張だ。現行のSB 53がモデルのリリース後・インシデント発生後の報告を主眼としているのに対し、OpenAIが求める改正はより川上の開発プロセスそのものに規制の網をかけようとするものであり、法律の射程を大きく広げる内容といえる。
同社はこうした追加要件について、「問題を早期に特定し、業界全体での知見共有を促進する」と説明している。一方で、これらの要件を満たせる体制を整備するコストを負担できるのは、OpenAIのような大規模な事業者に限られるという見方もある。
「逆連邦主義」という戦略
この動きの背景として、記事はOpenAIの戦略が「逆連邦主義(reverse federalism)」と評されていると紹介している。これは元記事中で用いられている表現であり、連邦議会での包括的なAI立法が遅れる中、各州が先行して互換性のある安全基準を実装し、それが最終的に国家レベルで採用されることを狙う手法を指す。
連邦レベルでは、AI規制の包括的な立法はいまだ成立しておらず、省庁ごとのガイドラインや大統領令が断片的に機能している状況だ。このような空白期において、カリフォルニア州のような影響力の大きい州でOpenAIにとって受け入れやすい基準を先行定着させることは、将来の連邦法の「たたき台」を形成するうえで大きな意味を持つ。過去にOpenAIが規制議論に関与した事例として、EU AI Actの策定過程でのロビー活動や、米国内での安全コミットメント署名なども知られており、規制形成への積極関与は同社の一貫した姿勢といえる。
規制の形成に積極関与する姿勢
一年も経たないうちに自ら成立に関与した法律の強化を求めるという動きは、OpenAIが規制の「受け手」ではなく「設計者」として振る舞おうとしていることを示している。安全性への本気のコミットメントなのか、それとも業界標準の先取りによる競争優位の確保なのか、その動機の読み方は分かれるだろう。ただいずれにせよ、規制形成のイニシアティブを企業側が握るという構図は、今後のAIガバナンス議論において重要な前例となりうる。業界標準の形成に先手を打つことで、将来の連邦規制の枠組みに影響を与えることが狙いだ。
詳細はOpenAI urges California to enhance AI safety law for better oversightを参照していただきたい。