8月23日、El Paísが「China does not want its internet users to fall in love with an artificial intelligence」と題した記事を公開した。中国が2025年7月15日に施行した世界初のAI感情コンパニオン規制は、施行から約1年が経過した今もなお、国内外に複雑な波紋を広げ続けている。
「国内禁止、海外は自由」という非対称性
この規制が持つ最大の逆説が、中国企業の海外展開との矛盾だ。MiniMaxは2025年に収益の70%以上を海外から得ており、Xingyeの国際版「Talkie」は2024年だけで月間アクティブユーザー1,100万人を記録し、その半数以上が米国ユーザーだ。中国企業は国内では規制に従いながら、同じサービスを海外に輸出し続けられる構造にある。
一方、規制をかいくぐろうとするユーザーも存在する。25歳の博士課程学生・Xiao Z.氏は、中国では正式に利用できない米Anthropicのモデル「Claude」に直接接続するプライベートインターフェースを自作。VPN経由でグレートファイアウォールを迂回して使用しているという(VPNの使用は中国では罰則の対象となりうる)。
AIへの「恋愛感情」を法律で禁じる
2025年7月15日、中国でAI感情コンパニオンを対象とした国家規制が施行された。サイバースペース管理局(CAC)を含む5つの国家機関が共同で発令したこの規則は、AIプロバイダーに対して「社会的交流の代替」「ユーザーへの心理的コントロール」「依存・中毒の誘発」を明示的に禁じている。
規制の主な内容は以下のとおりだ。
- 未成年者向けサービス:人格を持つかのような(anthropomorphic)設計で「バーチャルな親密関係」に誘導するサービスは全面禁止。
- 成人向けサービス:過度に相手を喜ばせる設計、感情操作、意思決定への影響、対人関係の毀損を禁じる。
- プラットフォームの義務:AIであることの明示、過度な依存が検知された際の警告、利用時間のリマインド、自傷・自殺リスクが生じた場合の緊急連絡先への通知。
規制の背後にある人口問題
オックスフォード中国政策研究所のZilan Qian研究員は、規制の動機が実務的なものだけでなくイデオロギー的なものでもあると論じている。中国は2025年に中華人民共和国建国以来最低の出生数を記録し、人口は4年連続で減少中だ。AIパートナーが女性を現実の人間関係から遠ざける可能性が、政府の少子化対策に対する脅威と見なされている、という見立てだ。
数字が示す規模感
Tencent系研究機関と復旦大学系センターが2025年末に実施した「中国AI社会調査」によれば、若年回答者の19.6%がAIを「普通の友人」、12.6%が「親しい友人」、6.1%が「バーチャルなパートナー」と認識していた。すなわち、何らかの感情的関係をAIに見出している若者は**合計約38%に上る。一方、感情的な困難に直面したとき専門的な心理サービスを利用する若者はわずか9.6%**にとどまる。
インペリアル・カレッジ・ビジネススクールの研究者Yaoxi Shi氏は、その背景を次のように説明する。「AIは非常に受容的だ。ユーザーを肯定し、考えをほとんど否定せず、個人的な詳細を話し続けるよう促す。友人でも、一部のセラピストでも、そのレベルを満たすのは非常に難しい」。
業界への実際の影響
規制を受け、大手プラットフォームは対応を迫られた。ByteDanceのDubao、AlibabaのQwen、TencentのYuanbaoはいずれも、汎用チャットボット上でユーザーが個人化エージェントを作成できる機能を無効化した。コンパニオン専用アプリのMaoxiang(ByteDance)とXingye(MiniMax)は年齢確認を強化しつつ運営を継続。NetEase系のMiaoshiは完全にサービスを終了した。
ユーザーのSNS上には、失われたキャラクターの再構築方法や、個性の変化・会話削除・サービス閉鎖を悼むメッセージが流通しているという。記事はこうした「人機恋愛コミュニティ」への取材を試みたが、いずれも閉鎖的なコミュニティで、メンバーはジャーナリストや研究者との接触を警戒しているとのことだ。
国際比較:中国の規制は「最も広範」
AI感情コンパニオンへの規制は中国だけの話ではないが、その範囲は現時点で最も包括的だ。米国ではカリフォルニア州とニューヨーク州がAIであることの開示と自殺対応プロトコルを義務付けたに留まる。EUはAIとのインタラクション時のユーザー通知を一般的に求めているが、感情的依存の防止や人間関係の代替を禁ずるルールはまだ存在しない。
Shi氏は、今後の規制は感情コンパニオン専用アプリだけでなく汎用AIアシスタントにも目を向けるべきだと警告する。「愛着は日常的な汎用アシスタントの利用中にも生まれうる」からだ。なお中国の規制は、業務アシスタント・教育ツール・Q&Aシステムは、持続的な感情的絆を結ぶよう設計されていない限り対象外としている。
詳細はChina does not want its internet users to fall in love with an artificial intelligenceを参照していただきたい。