8月22日、The Guardianが「'Digging the grave of my profession': the Hollywood creatives training AI to do their jobs」と題した記事を公開した。ハリウッドで職を失ったクリエイターたちが、生活費を稼ぐためにAIへ自分の専門スキルを「売る」という逆説的な実態が、業界の深刻な雇用危機とともに描かれている。
「自分の墓を掘っている」
あるLAのドキュメンタリー監督は、匿名を条件にこう語った。
「私は本質的に、シャベルを渡されて自分の職業の墓を掘るよう頼まれた」
この監督は、AIに映像の文字起こしを教える仕事を引き受けた。リトルリーグの野球試合の録音を使い、音楽と群衆の騒音に埋もれた声を聞き分けさせ、さらに各話者の外見(「金のネックレスをしたボタンダウンシャツの金髪女性」など)を記述し、アクセント(英語・スコットランド・アフリカ系アメリカ人・アジア系など)を分類するガイドまで作成した。
率直に言えば、AIを人間の代わりに使えるよう訓練する作業を、その人間自身が担っているという構図だ。
なぜハリウッドのクリエイターがこの仕事をするのか
背景にあるのは、エンターテインメント産業の急激な雇用喪失だ。
- LAの撮影日数は2021年から2025年の間に48%減少(FilmLA Research調べ)
- 米国全体の映画・音響録音産業の雇用は、2022年7月の45万人から2026年5月には32万6千人へ、28%減少(米労働統計局)
パンデミックの余波、2023年の全米脚本家組合(WGA)のストライキ、そしてNetflixなどストリーミング各社の投資縮小が重なった結果だ。こうした変化の象徴として、Netflixは2026年に制作する約1,000タイトルのうち300作品でAIを制作工程に活用していると明らかにしている(The Guardian記事より、2026年8月時点の報告)。ストリーミング競争が激化するなかで、スタジオ側がいかにAI活用を急加速させているかを示す数字だ。
こうした状況の中、MercorやMicro1、Handshakeといったいわゆる「AIトレーニング会社」に需要が生まれた。これらの企業はAnthropicやOpenAIとの契約を持ち、金融・医療・法律・ソーシャルワークなど様々な分野の専門家から人間のスキルを収集している。ハリウッドもその対象になっている。
時給は12ドルから200ドルと幅があり、Micro1は今週、映画・TV・デジタルプロダクションで5年以上の実績を持つプロデューサーを対象に最大85ドル/時で募集をかけていた。業務内容は「予算調整、スケジュール変更、スタッフ・クルーとの調整といった現実的なプロダクション管理シナリオを模した評価タスクの設計と作成」だ。
トレーニング業務の中身
BBCドラマ「Rules of the Game」の脚本・製作を手がけ、Paramount+の「Little Disasters」も共同脚本を書いたスクリーンライターのRuth Fowlerは、「常に金欠だから始めた」と明言する。
彼女がこなした業務は、
- 仮想の2日間撮影のための詳細スケジュール作成(ロケ許可証の特定、現地の危険要素、採光条件、カット毎のスタッフリスト、子役への対応を含む)
- 映画・TVアイデアのピッチデック作成(プロダクション・エグゼクティブが行うような作業)
をAIに教えること。「これはAIに私たちの仕事の取り方を教えているのだ」と彼女は言う。
複雑な心境:「でも銀行残高には勝てなかった」
AmazonやHBO、NBC、Lionsgate向けのTV脚本クレジットを持つ別のライターは、2023年のストライキ後に仕事が戻らず、AIのスクリプト評価やポッドキャスト・小説の採点を始めた。「資金繰りを助けてくれているし、ストレスを感じずに済む」と語る一方、AIの進化も実感しているという。
「人間の感情に近づいてはいない。ニュアンスがない。CSIのエピソードは書けても、SeveranceやSuccessionは無理だ」
Southern California Academy(SCA)で脚本を教えたこともある脚本家のJody Wheelerは楽観的な見方をする。「アイデアを大量に出すのは得意だが、機械がオスカー候補の脚本を生み出す日は近くない」とし、「シャベルで自分たちを埋葬しているとも見れるが、自分一人ではたどり着けなかったものを掘り起こす道具にもなりうる」と述べた。
ただ、同じライターはこうも打ち明けた。
「2ヶ月前は『これをやるべきじゃないかも』と思い始めていた。でも最終的には、銀行にお金があることの方が勝った」
一方で台頭する「AI映画」
若い世代のフィルムメーカーはAIを使って、従来では資金調達できなかった作品を制作し始めている。Gossip Goblinの名で知られるZack Londonは、AIで制作したSFショートで数億回の再生を記録し、今年後半に劇場公開予定の長編映画を完成させた。Ron Howardもベトナム戦争捕虜を題材にしたAI対応のアニメドキュメンタリー長編を手がけている。
ハリウッドという特定産業の危機は、より広い構造変化の一部でもある。BCGの2026年4月の分析によれば、米国全体で10〜15%の雇用がAIによって消滅し、半数以上の職種が形を変えるとされる。エンターテインメント業界はその変化が最も可視化された場所のひとつであり、ハリウッドのクリエイターたちが直面しているのは、その最前線の一端だ。
詳細は'Digging the grave of my profession': the Hollywood creatives training AI to do their jobsを参照していただきたい。