8月21日、Los Angeles Timesが「Economists see AI investment powering stronger economic growth」と題した記事を公開した。AI関連投資が2025年中に1兆ドルを超え、第3四半期GDP成長率予測が前回比0.5ポイント上振れしたという調査結果を軸に、エコノミストが今後の米経済をどう見ているかを詳報している。
AI関連支出がGDP予測を押し上げ
Bloombergは毎月、最大85名のエコノミストを対象に米経済見通し調査を実施している。今回は8月14〜19日に行われたもので、市場の先行きを測る上で信頼性の高い定点観測として広く参照されている。
その調査によると、2025年第3四半期のGDP成長率予測が年率2.5%に引き上げられた。前回調査の2.0%から0.5ポイントの上方修正だ。
修正の主な要因として挙げられたのが、AI関連の設備投資(capex:capital expenditureの略。企業が設備・インフラ等に投じる資本的支出)の拡大と、高所得世帯の消費増加だ。INGのチーフ国際エコノミスト、James Knightley氏は次のように述べている。
「Tech/AI関連投資がビジネス設備投資を押し上げる主因となっており、高所得世帯の支出が消費成長の大半を占めている」
Bloomberg Industryのアナリストによれば、AI関連の設備投資総額は2025年中に1兆ドルを超え、2027年には1.5兆ドルに達する可能性がある。
なぜ今、エコノミストがAI投資を注視しているのか。背景には、データセンター建設・半導体調達・クラウドインフラへの大規模資金投入が実体経済の需要を直接的に押し上げているという事実がある。従来型の景気刺激策と異なり、AI投資は民間主導かつ急速に規模が拡大しており、マクロ経済指標に対する影響がこれまでになく可視化されやすい局面にある。
成長率の上振れは一時的か、持続的か
第3四半期の予測は引き上げられた一方、2027年末までの四半期GDP予測はほぼ据え置きで、2.0〜2.2%の狭いレンジに収まっている。AI投資による押し上げ効果が長期的な成長トレンドを大きく変えるとは、現時点では評価されていない。
インフレ面では、食品・エネルギーを除くPCE価格指数(コアPCE)が指標として用いられている。PCE(Personal Consumption Expenditures)価格指数とは米商務省が算出する個人消費支出ベースの物価指数で、Fedが政策判断の参照指標として重視するものだ。そのコアPCEは2025年通年で平均3.2%、2027年は2.5%まで低下すると予測されている。
インフレが緩やかに鈍化するとの見通しを踏まえ、連邦準備制度(Fed)は来年7月まで金利を据え置くとエコノミストは予想している。
なお、Fedの議長については、Jerome Powell前議長の任期満了を受け、Kevin Warshが新議長に就任した。Warsh氏はもともとFed理事を務めた経歴を持ち(2006〜2011年在任)、金融規制や市場との対話を重視することで知られる人物だ。新体制のもとで利上げに積極的ではないとの観測が広がっており、Knightley氏によれば9月の利上げ確率は50%を下回る水準まで低下している。
リスク要因:イラン情勢と雇用減速
上振れした成長見通しに対するリスクとして記事が挙げているのが、イラン戦争の激化だ。原油・消費者物価を押し上げつつ経済成長を抑制する可能性があり、インフレがFedの目標(2%)を上回る局面で供給ショックが長引けば、金融政策の運営が一層難しくなる。
雇用については、2025年の月次雇用増加数の予測が6万6,000人に下方修正され、2027年も同水準が続くと見込まれている。コロナ後の労働市場の強さと比べると明確な減速であり、AI投資が生産性を押し上げる一方で雇用の量的拡大には直結しにくいという構図も透けて見える。
まとめ
AI関連の設備投資が短期のGDP成長を底上げしているという構図は、今回の調査によって数字の裏付けをもって示された。ただし、1兆ドル超の支出が長期的な生産性向上や賃金上昇につながるかどうかは、現時点の調査では踏み込まれていない。
エコノミストの多数が2027年以降の成長見通しを据え置いていることは、AI投資の「短期的需要創出効果」と「中長期的な経済構造の変革」を切り分けて評価していることを示唆している。イラン情勢や雇用の軟化、Fed新体制の政策姿勢といった下振れリスクも重なり、AI投資が経済全体を押し上げる効果は中長期では依然として不透明なままだ。
※編集部の考察:AI投資のGDPへの波及効果をめぐっては、IMFのAIと労働市場に関するレポートなど国際機関も継続的に分析を更新しており、今後の調査と照合することで中長期的な影響をより立体的に把握できるだろう。
詳細はEconomists see AI investment powering stronger economic growthを参照していただきたい。