8月23日、The Next Webが「China's AI and chip firms are handing out shares to keep their engineers」と題した記事を公開した。中国のAI・半導体企業がエンジニア確保のために株式付与を大規模に展開している実態と、米国・欧州との人材戦略の違いについて詳しく紹介されている。
全従業員の97%に株式を配る中国半導体企業
AIブームと米国の輸出規制が重なり、中国国内で半導体エンジニアの争奪戦が激化している。その対応策として、中国の半導体・AI企業が打ち出しているのが、異例の規模の株式付与だ。
中国のAIチップメーカーカンブリコン(Cambricon)は、機械学習向けプロセッサを手がける上海発の企業で、2019年に科創板(上海証券取引所の技術系市場)へ上場している。同社は124名のコアスタッフに対して約60万株を付与し、1人あたり平均557万元相当となる(約83万ドル換算。なお、この換算値は元記事に明示されたものではなく、1元≒0.15ドル換算による編集部の推算である)。さらに注目すべきは付与の広さだ。同社は944名の従業員——全従業員の**85.3%**——に対して500万株を付与する計画を2028年まで実施している。
光トランシーバー(AIデータセンター向けの光通信モジュール。GPUサーバー間の高速・低遅延通信を担うハードウェアコンポーネント)メーカーのZhongji InnoLightは、99名の主要人材に248万株を割り当て、1人あたりの平均利回りは2,600万元を超える。半導体製造装置メーカーのAMECにいたっては、制限付き株式プラン(Restricted Stock Plan)の対象が全従業員の97%以上に及ぶ。
現金面でも動きは激しい。ByteDanceとTencentは、AIエンジニアの確保に向けて最大150%の給与引き上げと約35%のボーナスを提示したと報じられている。
株式は「ギフト」ではなく「パフォーマンス装置」
ただし、これらの付与は無条件ではない。カンブリコンは、インセンティブ計画の発動条件として約148億ドルの売上目標を設定している。つまり株式は単なる報酬ではなく、業績と連動した人材引き留め手段として機能している。
この動きの背景には地政学的な要因だけでなく、国内競争も影響している。米国の輸出規制によって国産チップ設計が国家的な優先事項となり、限られた人材プールへの需要が集中している。その結果、中国企業同士が互いの人材を引き抜き合う状況が生まれており、株式付与はその防衛手段としても機能している。
米国は「現金」、欧州は「研修」——3地域の対比
同記事では、同じ人材不足に対する3地域の対応が端的に整理されている。
- 中国:株式(オーナーシップ)を提供
- 米国:現金を提供。Anthropicは業界最高水準の報酬を提示しており、元記事によればCEOが社内で報酬水準の高さに言及したとされている(「報酬目当ての入社」を懸念したとする一部の解釈は、元記事の文脈から強調しすぎの可能性があり、原文を直接確認されたい)
- 欧州:研修を提供。欧州半導体スキルアカデミーは大陸の半導体人材不足を6万5,000人と試算しており、見習い制度や欧州半導体法(Chips Act)プログラムで供給側から対処しようとしている
欧州の問題は人材の絶対数だけではなく、制度にもある。主要な雇用主が上場企業・研究機関・大学発スタートアップであり、EU加盟国間で従業員持株制度の仕組みが大きく異なるため、株式を人材確保のツールとして活用しにくい構造がある。研修は3つの選択肢の中で唯一「即座に受け取れない」解決策であり、即戦力の引き留めという観点では限界もある。
エンジニアの視点で見ると
中国企業の戦略でとりわけ目を引くのは、株式付与の「広さ」だ。日本でもストックオプションは税制適格ストックオプション制度の整備とともに普及しつつあるが、全従業員の85〜97%をカバーする今回の計画は、少数の幹部や創業メンバーに限定する一般的なケースとは性質が異なる。AMECの97%という数字は同社単体の事例ではあるが、カンブリコンの85.3%と合わせて見ると、中国半導体業界における株式付与の「全員参加型」への傾向が浮かび上がる。
業績目標とのリンクも含め、エンジニア個人がビジネス成果に直接コミットする構造を意図的に設計している点は、採用・定着の仕組み作りを考えるうえで参照する価値がある。
詳細はChina's AI and chip firms are handing out shares to keep their engineersを参照していただきたい。