8月22日、PYMNTSが「AI Jobs Are Booming for Gen Z, Not Everyone」と題した記事を公開した。AIを軸とした米国の雇用急拡大がZ世代の一部に大きな恩恵をもたらす一方、スキルを持たない若者や経験豊富なベテランが取り残されるという労働市場の二極化について詳述している。なお本記事はLinkedInの調査レポートをThe Wall Street Journalが8月18日に報じた内容を、PYMNTSがさらに取り上げたものであり、情報の出典はLinkedIn→WSJ→PYMNTSという構造になっている点を念頭に読むと理解しやすい。
AIスキルが職歴を逆転する——Z世代が高収入ポジションを席巻
LinkedInが2026年8月に公開した調査レポート「The AI Talent Divide 2026」によると、2025年において高収入の個人貢献者ポジションである「フォワード・デプロイド・エンジニア」(年収中央値19万9,000ドル)と「AIエンジニア」(同16万6,000ドル)の新規採用者の69%がZ世代だった。
「フォワード・デプロイド・エンジニア(Forward Deployed Engineer)」とは、顧客の現場に直接入り込み、AIソリューションの実装・カスタマイズを担うエンジニア職で、高い技術力と顧客折衝能力を同時に求められる比較的新しいロールだ。Palantirなどの企業が普及させた職種名として知られている。AIエンジニアとともに、この数年で急速に需要が高まったポジションである。
一方、その一段上のポジション「Head of AI」(年収中央値23万6,000ドル)では、**ミレニアル世代が60%**を占めている。マネジメント経験が問われるこのレベルには、さすがに経験の蓄積が影響するようだ。
従来のキャリアパスであれば、10年以上の経験を積んでようやく到達するようなポジションに、Z世代が最短ルートで就いている。日本の職場では「年功」や「経験年数」がキャリアの進行を規定する慣行が根強いが、ここで起きているのは日本固有の話ではなく、技術習熟度が職歴の長さを逆転するという米国労働市場における構造的な現象だ。LinkedInのエコノミクス部門責任者(北南米担当)であるKory Kantengaはこの現象をCBS Newsに対して「企業はAI人材を貪欲に採用している」と表現した。
背景にあるのはシンプルな原則だ。AIの技術的な習熟度は、職歴の長さとは独立して存在する。5年前にはほとんど存在しなかった技術であるため、実務経験10年のエンジニアと入社1年目のエンジニアの間に、技術的なアドバンテージの差がほぼない場合がある。
LinkedInのデータでは、AI求人の掲載数は2024年から2025年にかけて156%増加(前年の14%増から急加速)。AI職の年収中央値は17万7,000ドルで、非AI職の8万ドルの2倍以上となっている。
「下の梯子」が消えている——スキルなき若者が直面する現実
ここで問題になるのが、AI雇用ブームの裏側だ。
スタンフォード大学のStanford Digital Economy Labが追跡するデータによると、最もAIの影響を受けやすい職種において、22〜25歳の雇用は前年比19%の相対的な減少(2026年6月時点)を記録している(2025年8月時点では15%)。Stanford Digital Economy Labは、デジタル化・自動化が雇用や経済に与える影響を定量的に追跡する研究機関で、AIの労働市場への影響分析において一次資料として頻繁に参照される。同Labの具体的なレポートへは、元記事を経由してアクセスすることができる。
重要なのはその内訳だ。この減少はレイオフ(既存社員の解雇)によるものではなく、若者の新規採用が減少したことによる。AIが業務を「補助」するのではなく「自動化」する形で導入されている職種で、この現象が顕著に現れている。
同研究の分析は端的だ。
「AIが労働者の補助として使われている職種では、雇用は横ばいか増加傾向にある。特に経験のある労働者においてはなおさらだ」
つまりAIは、若者がキャリアの入り口として利用してきたルーティンワークを代替しながら、同時に高度なAI技術を持つ一部の若者だけを引き上げるという、二方向の圧力をかけている。エントリーレベルの仕事が縮小することは、将来の熟練労働者を生み出すための「経験の積み上げ経路」そのものが失われることを意味しており、中長期的な労働供給にも影響しうる構造問題だ。
「AIの恩恵」は誰でも受けられるわけではない
急成長しているAI職への参入が誰にでも開かれているかといえば、そうではない。
- LinkedInの調査によると、AI職従事者の91%が学士号以上を保有。一部の高収入職種では95%を超える。
- 2025年の新規AI採用における**女性比率はわずか26%**(非AI職では50%)。「Head of AI」ポジションでは20%にとどまる。
結果として労働市場は二つに分断される形となっている。技術的な素養を持つ一部の若者が、過去のどの世代よりも早いペースで昇進・高収入を得る一方、AIスキルや技術系学位を持たない若者は、縮小しつつある旧来のエントリーレベルの職を争う状況に置かれている。AIが「チャンスの平等化装置」として機能するという期待がある一方で、現実のデータは学歴・性別・技術習熟度による格差をむしろ拡大させていることを示している。
詳細はAI Jobs Are Booming for Gen Z, Not Everyoneを参照していただきたい。