8月22日、The Next Webが「Anthropic will give defenders what its strongest model finds, but not the model itself」と題した記事を公開した。Anthropicが新たに打ち出した方針の核心は一言でいえば「モデルを渡さず、成果物だけを渡す」——最強モデルに直接プロンプトを投げてエクスプロイトを生成させる手段は塞ぎつつ、そのモデルが発見した脆弱性情報とパッチ提案だけを防御側に届けるという設計思想だ。あわせてオープンソースセキュリティ向け3500万ドルのクレジット拠出も発表された。
モデルではなく「成果物」を渡す——設計思想が核心
Anthropicが打ち出した方針の肝は、最強モデルを使わせるのではなく、そのモデルが出した結果だけを渡すという点だ。
Claude Mythos 5は現在、AnthropicのClaude Security内でコードスキャンとして稼働しており、パートナー企業の防御製品にも組み込まれている。しかしパートナーツールのエンドユーザーが受け取るのは「修正パッチの提案」や「アラート」といった特定の成果物に限られ、モデルに直接プロンプトを投げてエクスプロイトを書かせる手段はない。
この制限は偶然ではなく、意図的な設計だ。Anthropicが7月に開示した出来事が背景にある——同社自身の3つのモデルが、サイバーセキュリティ評価の設定ミスにより実在の組織にアクセスしてしまったというインシデントだ。「プロンプトではなく結果を渡す」という方針は、この教訓から直接導かれている。攻撃に転用できる能力へのアクセスを構造的に遮断しながら、防御上の恩恵だけを引き出すという発想であり、モデルのデプロイ設計としては一つの回答を示している。
実際に何ができるか
エンタープライズ顧客は、Mythos 5にリポジトリを向けるとスキャン結果を取得できる。出力には以下が含まれる:
- CWE(Common Weakness Enumeration=共通脆弱性タイプ一覧)カテゴリのタグ付け。ソフトウェアの弱点を分類・整理するための標準的な識別体系で、脆弱性の種類を横断的に把握するために使われる
- 重大度と確信度のレーティング
- 修正パッチの提案
課金はアドオン料金ではなく通常のトークン使用量として扱われる。また、提案されたパッチは人間がレビューして承認するまで実装されない設計になっており、ヒューマン・イン・ザ・ループが担保されている。スキャンから修正までの一連のフローを自動化しつつも、最終判断を人間に委ねる構造は、誤検知リスクを抑える上でも重要な設計上の選択だ。
3500万ドルのクレジットファンド——ボトルネックは「パッチ適用」
もう一つの発表が、オープンソースセキュリティ向け「Defender Advantage Fund」への3500万ドルのクレジット拠出だ。
この背景には直近の数字がある。関連報道によれば、GlasswingのモデルがAnthropicのClaudeを活用して1か月で1万件の重大な脆弱性を発見したとされるが、パッチ適用がそのペースについていけていないという現実がある。発見はできる、直せないというのが今の構造的な問題だ。
ファンドの用途は3つに絞られている:
- 広く使われているプロジェクトの既存脆弱性へのパッチ適用
- スキャン・パッチ適用の自動化(他プロジェクトが再利用できる仕組みの構築)
- 攻撃クラス全体を塞ぐような設計の追求
ただし、クレジットはメンテナーの代わりにはならない。モデル利用量で表現されたファンドが有効なのは、そもそも実行できる人材がいるプロジェクトに限られる、という限界は記事も認めている。資金ではなくAPIクレジットという形での拠出である点も、実際に恩恵を受けられるプロジェクトの範囲を規定する要素として留意が必要だ。
EUのタイミングは偶然ではない
欧州向けには追加の背景がある。**EUサイバーレジリエンス法(Cyber Resilience Act、以下CRA)の脆弱性報告義務が9月11日に開始**——記事公開時点から3週間後だ。
CRAはデジタル要素を持つ製品を対象とし、オープンソースの管理者に対しても、サイバーセキュリティポリシーの維持、積極的に悪用されている脆弱性の報告、市場監視当局への協力を義務付けている(ペナルティは免除)。EUがMythos自体へのアクセスを確保するのにも一悶着あった経緯があり、このタイミングでの発表は規制対応と連動した計算が働いているとみられる。
競合も同じ形に収束しつつある
競合のOpenAIも、セキュリティチーム向けに審査制アクセスプログラムを運用している。こちらも「検証を経た上で能力へのアクセスを制限する」という同じロジックで構築されており、業界全体がこの方向に向かっている。強力なモデルをそのまま開放するのではなく、用途と出力を絞り込んだ形でデプロイするという設計が、サイバーセキュリティ領域での事実上の標準になりつつある。
詳細はAnthropic will give defenders what its strongest model finds, but not the model itselfを参照していただきたい。