8月22日、David Soria ParraとDen Delimarsky(両名ともLead Maintainer)が「The New MCP Roadmap」と題した記事を公開した。マルチエージェント構成が実用段階に入りつつある中、現行のMCP認可モデルは「ユーザーが不在のまま自律動作するエージェント」というシナリオで設計上の破綻を抱えている。今回のロードマップはその根本的な問題を含む5つの優先領域を定義したものであり、Core MaintainerとコミュニティのWorking Groupが共同で策定した。
MCP(Model Context Protocol)はAnthropicが2024年に公開した、AIモデルと外部ツール・データソースを接続するためのオープンプロトコルだ。リリースから急速に普及し、現在はClaude、Cursor、その他多数のAIクライアントが対応している。今回の公式ブログでの発表は、実装者にとって最上位の一次情報となる。
最注目:エージェントIDと企業向けセキュリティ
実装者が最初に確認すべき領域が「Agent Identity and Enterprise-Ready Security(エージェントIDと企業向けセキュリティ)」だ。この問題が最注目に値する理由は、マルチエージェント普及に伴い既存の認可フローが構造的に破綻しているためである。
現状のMCP認可は「ブラウザ上でユーザーがアクセスを承認する」フローを前提としている。これはインタラクティブなクライアントでは機能するが、クラウド上で自律動作するエージェント、ユーザー不在で別のエージェントに権限を委譲するシナリオでは成立しない。
ロードマップはこの問題に対して、次の技術スタックで解決を図ると明言している:
- DPoP(Demonstrating Proof of Possession / RFC 9449) の確定と普及推進。トークンを盗まれても第三者が使用できないよう、クライアントが秘密鍵の保持を証明する仕組み
- Workload Identity Federation によるエージェントIDと権限委譲のパス定義。クラウドワークロードが人間の介在なしにIDを取得・提示できる仕組み
- Enterprise-Managed Authorization の基盤となるID-JAGグラント(Identity and Authorization Grant:標準的なOAuthフロー上でエージェントIDと権限情報を一括して渡すための拡張グラントタイプ)と標準トークン交換
- IETFのOAuthおよび**WIMSE(Workload Identity in Multi-System Environments)** ワーキンググループへの継続的な関与
「APIキーの使い回しや長命トークンではなく、既存の標準規格に基づいた信頼モデルを構築する」というのが基本姿勢だ。
非同期・ストリーミングを正式プリミティブへ
「Agentic Messaging Primitives」領域では、長時間実行ループや中断制御など、従来のリクエスト/レスポンスモデルに収まらないワークロードへの対応を進める。
すでにTasks、サブスクリプション/リッスン、進捗通知が導入されているが、今回の優先事項は:
- サーバー起点イベント(WebhookとChannel)の整備。クライアントがポーリングし続けなくて済む構造にする
- Tasks拡張(SEP-2663)を仕様本体に昇格させる
- Agents、Transports、Triggers & Events の各ワーキンググループをまたいだコンポジションレビュー
HTTPトランスポートの一本化
「HTTP-Native Transport Unification and Hardening」では、2026-07-28リリースでリモートMCPサーバーが通常のHTTPワークロードと同等になった流れを受け、ローカルサーバーがStreamable HTTPをstdio越しに話すケースも含め、トランスポートを単一モデルに統一する方針を示している。これによりサーバー/クライアント実装の複雑さを削減する。
ツール呼び出しのスケール問題に着手
「Improved Primitives」では、ツール呼び出し結果の扱いと、ツール数増加によるスケール問題の2点を対象にする。
現状、tools/call のレスポンスは同一の出力を複数形式で返せる仕様になっているが、サーバー側はどの形式がモデルに渡されるか把握できない。これを明確な1つの契約に標準化する。
また、100個のツールを持つサーバーに接続すると、ユーザーが最初の質問をする前にモデルがそのすべての定義を消費することになる。プログレッシブディスカバリーの仕組みを導入し、会話の文脈が絞られるにつれてサーバーがカタログを段階的に開示できるようにする。
SEP(仕様拡張提案)の優先処理ルール
今回のロードマップ発表には、コントリビューター向けの実務的なルール変更も含まれている。5つの優先領域に属するSEP(Specification Enhancement Proposals)は優先レビューの対象となる。領域外のSEPは自動却下ではないが、Maintainerのレビュー時間はロードマップ優先で割り当てられる。
SEPを検討している場合は、関連するワーキンググループに提起し、DiscordでCore Maintainerに連絡する流れが推奨されている。
詳細はThe New MCP Roadmapを参照していただきたい。