8月20日、TechStartupsが「Nvidia in talks to invest in AI data startup Mercor at $20 billion valuation」と題した記事を公開した。NVIDIAがAIデータスタートアップMercorへの出資を協議しており、評価額が200億ドルに達する可能性があるという。創業からわずか3年、GPUでは代替できない「専門家の判断力」を商品にした企業が、AIインフラの中枢に食い込みつつある。
NVIDIAがMercorへの出資を検討中——評価額は1年足らずで倍増へ
The Informationの報道によれば、NVIDIAはAIデータスタートアップMercorへの出資を協議している。MercorはNVIDIAのオープンソースAIモデル開発に使われる専門データと人的評価を供給している企業だ。既存投資家のGeneral Catalystが今回のラウンドをリードする方向で話し合いが進んでいるが、交渉はまだ初期段階にあり、合意には至っていない。
注目すべきは評価額の急騰だ。Mercorは2025年10月にFelicis Venturesが主導したシリーズCで3億5000万ドルを調達し、評価額100億ドルを達成したばかり。今回の交渉が成立すれば、1年も経たずに評価額が倍の200億ドルとなる。
大学中退の3人が3年で200億ドル企業を作るまで
Mercorは2023年にBrendan Foody、Adarsh Hiremath、Surya Midhaの3人が創業した。当初はAIを活用した採用支援ソフトウェアを手掛けていたが、AIラボが抱える別の問題——高度なモデルの訓練・評価を担える専門家の確保——に軸足を移した。
この方向転換が当たった。
現在Mercorは、AIラボと弁護士・医師・エンジニア・科学者・金融専門家といったドメイン専門家をつなぐプラットフォームを運営している。専門家たちはデータの作成・レビュー・ラベリング・評価を担い、その成果物はRLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback:人間のフィードバックを用いた強化学習)、モデル評価、ベンチマーク構築、シミュレーション環境の整備などに活用される。RLHFはChatGPTをはじめとする現代の大規模言語モデルの品質を支える中核技術であり、その訓練データの質がモデルの出力品質を大きく左右する。
顧客にはOpenAI、Anthropic、Meta、Nvidiaが名を連ねる。2026年半ば時点で、年換算の総課金額は数十億ドル規模に達しており、数万人規模の専門家ネットワークを管理している。
シリーズC完了時点で3人はいずれも22歳。元記事によれば、このラウンドにより自力での億万長者として世界最年少クラスにあたるとされている。
NVIDIAにとっての戦略的意味
NVIDIAがMercorに出資する動機は財務的リターンだけではない。MercorはすでにNVIDIAの**Nemotronファミリー**をはじめとするオープンソースモデルの開発に専門家評価データを提供している。NemotronはNVIDIAが開発・公開している大規模言語モデル群で、企業向けのカスタマイズや研究用途への活用を主眼に置いたオープンウェイトモデルだ。出資によってこのデータ供給関係を深化・安定化させる狙いがある。
NVIDIAはこれまでもモデル開発企業やインフラ系スタートアップなど、AIスタック全体にわたる投資を続けてきた。Mercorへの関心はその延長線上にある。
背景にあるのは、AIモデルの質をめぐる競争の変化だ。インターネット上のテキストデータを大量に使う手法は限界が見え始めており、医療・法律・金融・工学・科学といった専門領域でモデルを鍛えるには、GPUが生産できないもの——信頼性の高い人間の判断力——が必要になっている。高品質なデータを供給できる専門家ネットワークの価値が、それだけ高まっている。
現状と今後
現時点でNVIDIAもMercorも公式なコメントを出しておらず、交渉条件は今後変わる可能性がある。ただし、Bloombergが今月初めに「少なくとも1件のタームシートを受領済み」と報じており、交渉は具体的な段階に入っている。
ラウンドが報道された評価額で成立すれば、Mercorは採用支援スタートアップから3年で200億ドルのAIデータ企業へと転じたことになる。
詳細はNvidia in talks to invest in AI data startup Mercor at $20 billion valuationを参照していただきたい。