8月20日、The Decoderが「China now has its own AI circular financing scheme」と題した記事を公開した。中国のヒューマノイドロボットメーカーUnitreeの上場を契機に浮上した「AI循環融資スキーム」の実態について詳しく紹介している。
上場初日に460%高——その裏側
ロボットメーカーのUnitree Roboticsが上海市場に上場し、株価は最大629%上昇、終値ベースで460%高となった。調達額は61億元(約904億円)、時価総額は約500億ドルに達した。元記事ではUnitreeを「中国本土で上場したヒューマノイドロボットメーカー」として紹介しており、業界内での存在感の大きさを強調している。
しかしFinancial Times(FT)の報道によれば、この急騰の裏には米国でも批判されている「循環型ビジネスモデル」と酷似した構造が存在する。
「循環融資スキーム」とは何か
本記事を理解する上で、まず「循環融資スキーム(circular financing scheme)」という概念を整理しておく必要がある。
これは、メーカーや投資家が自ら資金を出して「顧客」を作り出し、その顧客からの売上をもって事業の成長を演出する構造を指す。外部からの独立した需要ではなく、資金の出し手と受け手が循環しているため、実態の市場規模が見えにくくなる。中国のヒューマノイドロボット産業では、以下のような形でこの構造が機能していると指摘されている。
- メーカーや地方政府が資金を出して「訓練センター」を設立・運営する
- 訓練センターがメーカーのロボットを購入し、人間がテレオペレーション(遠隔操作)でロボットに物理タスクを「教える」
- センターが収集した訓練データをメーカーに売り戻す
- メーカーはロボット販売の実績と訓練データを同時に手に入れる
センターの運営資金は地方政府とメーカーが共同で拠出するケースが多く、「誰が最終的な需要を生み出しているか」が不透明になる。
「誰がロボットを買っているか」という問題
数字が実態を示している:
- メーカーLejuでは、主力ロボットの販売の**45%**が訓練センター向け
- Unitreeは2025年前9カ月のヒューマノイド収益の4分の3近くが「教育・研究」用途
「両者にとって都合がいい。どちらも実績を示せる」と、あるアルゴリズムエンジニアはFTに語った。
訓練センターは2025年6月時点で90カ所以上存在し(市場調査会社Interact Analysis調べ)、5分間のロボットダンス用訓練データの単価は最大100万元(約1,480万円)に上る。
アナリストのPoe Zhao氏はこの構造を「独立した需要と、政策主導のエコシステム内で生み出された需要の区別を曖昧にする」と指摘する。
データの質と、バリュエーションへの疑問
訓練データ自体の品質にも疑問符がつく。Interact AnalysisのMarco Wang氏によれば、センターで収集されるデータは実環境での稼働を伴わないため「100%有用とは言えない」。あるセンターマネージャーは、8時間の訓練のうち使えるのは2〜3時間分だと明かした。
バリュエーションへの批判も根強い。Bloombergによれば、Unitreeの株価収益率は売上高の35.89倍で、香港上場の競合他社の約20倍と比べて割高だ。Union Bancaire PrivéeのVey-Sern Ling氏は「株価急騰に根本的な裏付けはない」と断言しており、FTは初期投資家がすでに出口を探していると報じている。
米国でも同じ構図——NvidiaとOpenAI
※以下は元記事が言及している米国の類似事例であり、編集部による独自の論評ではない。
この循環構造は米国でも議論になっている。NvidiaはAI企業への直接・間接的な投資を続けており、最近ではオハイオ州でOpenAIのデータセンター建設の保証人として関与している。元記事はこれを「実際の市場規模を水増しする自己循環的需要」という批判と並べて紹介している。Jensen Huang CEOは、急成長企業が自力では整備できないインフラ基盤を作るために必要な投資だと反論している。
国家主導の成長モデルとして肯定する見方も
北京は明確にこのセクターを後押ししており、UnitreeのIPOの約**20%**はDeepSeekを含む戦略的投資家に割り当てられた。支持派は、EVや太陽光パネルを引き合いに出す——いずれも国家主導の需要が起爆剤となり、中国が世界シェアを握るに至った産業だ。
元記事は、循環融資スキームが「投資バブルの証拠」なのか「産業育成の合理的手段」なのかについて、現時点では結論を出していない。構造の存在自体は複数の報道で裏付けられているが、それが持続可能な産業基盤につながるかどうかは、今後の実需の広がり次第だというのが元記事の立場だ。
詳細はChina now has its own AI circular financing schemeを参照していただきたい。