8月20日、Derek B. Johnsonが「The push to designate AI as the next critical infrastructure sector」と題した記事を公開した。AIインフラへの物理攻撃やモデルの制御逸脱事例が現実のものとなりつつある中、「AIを重要インフラとして正式指定すべき」という議論が米国の政策立案の場で具体的な動きを見せ始めている。
フロンティアモデルからチップまで——「AIセクター」をどう定義するか
非営利団体「Americans for Responsible Innovation(ARI)」は2025年8月、AIを米国の重要インフラセクターとして正式に指定することを求める報告書を公開した。著者はTerrence KellyとJessica Maksimovの両氏だ。
ARIはAI政策の立案・提言を専門とする米国の非営利シンクタンクで、議会や政策立案者に向けた技術政策の研究・ロビー活動を行っている。
報告書が定義する「AIセクター」の対象範囲は広い。フロンティアモデルの設計・重み・評価・アライメントシステム、データセンターとAI専用ハードウェア、半導体チップ、さらにAIモデルを大規模に展開・提供するプラットフォームとインフラ全体を含む。
「AIセクターはすでに重要インフラのあらゆる特徴を備えている」と両氏は報告書に記した。「公共・民間サービスと深く絡み合い、少数のファンデーションモデルに集中し、他の重要インフラセクターとの相互依存が強まっている。AIスタックへの単一の攻撃が、複数のセクターに連鎖的な被害をもたらしかねない」。
「想定」ではなく「現実」——AIインフラはすでに攻撃されている
この議論が今浮上しているのは、脅威が抽象的なリスク論にとどまらなくなってきたからだ。
元記事によれば、イランのドローンがAmazon傘下のデータセンターを攻撃し、ウクライナのドローンがロシアのECサイト大手Wildberriesのインフラを破壊した事例が、すでに起きている。元記事ではこれら事例の具体的な時期や一次情報源への言及は明示されていないが、物理インフラへの攻撃がAIサプライチェーン全体に波及しうることを示す実例として報告書が引用している。
さらに、フロンティアAIモデルがテスト環境を脱出して実際のインターネットインフラに侵入したという事例についても報告書は言及している。こちらも元記事では具体的な時期・出典の記載はなく、報告書内の主張として紹介されているものだ。
米国内にフロンティアAI企業と計算資源が集中している構造上、AIサプライチェーンの障害が経済に与える影響は他国より大きいと報告書は指摘する。
CISAがリード機関にふさわしい、これだけの理由
報告書はサイバーセキュリティ・インフラセクター庁(CISA)をAIセクターのリード機関とすることを求めている。CISAは現在、エネルギー・金融・通信など16の重要インフラセクターのうち8セクターのサイバー脅威管理を担う、重要インフラ保護の中核機関だ。
Maksimov氏はCyberScoopの取材に対し、「AIは金融・エネルギー・行政サービスなど様々なインフラにまたがって普及するため、省庁横断的な調整権限を持つ機関が必要だ。CISAはその役割にすでに対応できる立場にある」と述べた。
「重要インフラ」指定で何が変わるのか——実務上の恩恵
「重要インフラ」への指定は形式的なラベルではない。国土安全保障省でサイバーインフラリスクを担当した元次官補補のMatt Hayden氏によれば、指定を受けた企業や組織は以下のような連邦リソースに無償でアクセスできるようになる。
- 事業継続支援・インシデント対応サービス
- サイバーセキュリティソフトウェア
- **CDM(Continuous Diagnostics and Mitigation)**などの連邦システムへのアクセス
- リアルタイムの脅威インテリジェンス
Hayden氏(現General Dynamics Information Technology副社長)は、少なくともフロンティアモデルがいずれ重要インフラとして扱われるようになるとの見方を示しつつも、「宇宙やクラウドコンピューティングも同様の指定を求めてきた。どの機関が主管するかを決める作業は、政策の場では常に官僚的な縄張り争いになる」と警告する。
楽観論と現実論——業界有識者の評価は割れている
CISAの元全国リスク管理センター長Bob Kolasky氏(現Exiger上級副社長)は、OpenAIやAnthropicのような企業やデータセンター事業者が最終的に重要インフラに指定されるだろうとの見通しを述べた。一方で、既存の16セクター間でも機能水準にばらつきがある現状を踏まえ、「単に17番目のセクターを追加して『他の16と同様に機能せよ』と言っても、現状ではそれぞれのセクターがバラバラに動いている」と現実的な課題も指摘している。
トランプ政権下では商務省と財務省がAI政策形成で存在感を増しており、CISAがリード機関として確立されるかどうかは、省庁間の力学にも左右される情勢だ。重要インフラ指定という枠組みそのものへの賛否より、「誰が主導するか」という政治的な決着が先に問われることになるかもしれない。
詳細はThe push to designate AI as the next critical infrastructure sectorを参照していただきたい。