8月20日、PyMNTSが「Anthropic and OpenAI Split as Massachusetts Pushes Nation's Toughest AI Safety Rules」と題した記事を公開した。この記事では、マサチューセッツ州が推進する米国最厳格レベルのAI安全規制案をめぐり、AnthropicとOpenAIが対立している構図について詳しく紹介されている。
AnthropicとOpenAIが真っ向から割れた
AI安全性の議論でしばしば歩調を合わせるように見えるAnthropicとOpenAIだが、マサチューセッツ州の規制案については明確に立場が分かれた。
同州の規制案は、現在審議中の大型経済開発法案に盛り込まれた条項で、州上院はすでに可決済み。下院と知事の承認を待っている段階だ。Bloombergの報道によれば、この提案は「米国で最も厳格な州レベルのAI安全基準」と位置づけられており、カリフォルニア州・ニューヨーク州・イリノイ州の既存法を上回る内容となっている。
何がそこまで厳しいのか――他州との具体的な違い
比較対象として参照されているのがイリノイ州法だ。同州では年1回、第三者機関によるAIラボの監査が義務付けられているが、その監査はあくまで「ラボ自身が設けた安全指針に従っているか」を確認するものにとどまる。つまり、評価の基準軸はあくまで企業側が設定したものであり、独立した外部基準による検証ではない。
一方、マサチューセッツ州の提案では、外部組織が独自の基準に基づいてモデルの潜在的危険性を120日ごとに評価できる仕組みを導入する。評価結果は公開される。ただし、州がAI開発を停止させる権限は持たない。
この「120日ごと」という評価頻度と「外部が基準を設定する」という二点が、他州の規制と一線を画す核心部分だ。年1回・自社基準での確認にとどまるイリノイ州モデルに対し、マサチューセッツ州案は評価の独立性と頻度の両面で要求水準を引き上げている。一方で、120日サイクルでの評価を実際に運用するにあたっては、評価を担う外部機関の認定基準や評価コストの負担主体など、実務上の課題も少なくない。元記事はこの点について詳細を明示していないが、制度設計の詳細は今後の立法過程で詰められるとみられる。
「自分の宿題を自分で採点させるな」vs「混乱を招くだけ」
この規制案に対するAnthropicとOpenAIの反応は対照的だ。
AnthropicのU.S.州・地方政府関係担当責任者であるCesar Fernandezは、より厳格な第三者評価の必要性をこう述べた。
「われわれは最終的に、業界が自分の宿題を自分で採点すべきではないと考えている」
一方、OpenAIのU.S.州政策・パートナーシップ担当責任者Donnie Fowlerは、各州がイリノイ州法を基準に足並みをそろえるべきだとし、州ごとに基準が異なる現状についてこう述べた。
「統一性がないことは、安全性の向上を意味しない。ただの混乱だ」
Fowlerの主張の背景には、州ごとに異なる規制基準が乱立することで生じるコンプライアンスコストの問題がある。開発企業は各州の基準に個別に対応しなければならず、特に中小規模のAI企業にとっては事業運営上の負荷が大きい。OpenAIとしては、仮に外部評価を義務化するにしても、連邦レベルか少なくとも州間で統一された枠組みの下で実施すべきだという立場だ。安全性への姿勢が異なるというよりも、規制のアーキテクチャをどう設計すべきかという点でAnthropicと見解が割れている構図といえる。
Anthropicの「金も出す」姿勢
Anthropicは規制推進の姿勢を行動でも示している。AI規制推進団体であるPublic First Actionに追加で2,000万ドルを寄付し、累計寄付額は4,000万ドルに達した。同社はプレスリリースで「透明性の向上を求める複数州の法律を支持してきたが、主要モデルの能力進化の速度を考えると、透明性だけでは不十分だ」と述べている。
Public First Actionは、AIの安全規制立法を各州レベルで後押しすることを目的として設立された非営利団体だ。Anthropicはその主要スポンサーとして、単なる政策的支持表明にとどまらず、資金面からも規制推進に関与している。
州レベルのAI規制が加速する背景
2025年前半だけで、米国内の各州が260本のAI関連法案を提出し、22本が成立している。連邦レベルでの統一規制が進まない中、州が独自に動く傾向は強まっており、マサチューセッツ州の動向はその最先端に位置する。なお、この統計はPyMNTSの元記事が引用する報道に基づくものであり、独立した一次出典の確認が推奨される。
州ごとの規制乱立という状況は、OpenAIが懸念するコンプライアンスコストの問題をさらに深刻化させる可能性がある。一方でAnthropicは、連邦規制が整備されるまでの空白を州規制で埋めることに積極的な立場をとっており、両社の対立は単なる一州の法案をめぐる争いにとどまらず、米国のAIガバナンス全体の方向性をめぐる論争の縮図といえる。
今回の経済開発法案は、AI条項以外にも複数のプロジェクト向け資金調達が含まれており、11月の選挙前に成立する公算が大きいとされる。マサチューセッツ州の規制が成立すれば、他州の立法動向にも影響を与えることが予想される。
詳細はAnthropic and OpenAI Split as Massachusetts Pushes Nation's Toughest AI Safety Rulesを参照していただきたい。