8月19日、CNBCが「Goldman studied where AI is squeezing labor markets. Here's what it found」と題した記事を公開した。ゴールドマン・サックスが主要先進国の雇用市場に対するAIの影響を調査したレポートをまとめたもので、コールセンターやソフトウェア系職種での雇用減少がすでにデータとして可視化されつつあることが明らかになった。
AIの雇用圧力、すでにデータに現れている
ゴールドマン・サックスのレポートによると、AIオートメーションへの露出度が高い産業では、2022年後半以降、求人数の伸びが全般的に鈍化している。この傾向はドイツ、オーストラリア、米国で特に顕著だ。
「2022年後半」という時点が基準点として選ばれているのは偶然ではない。ChatGPTの一般公開(2022年11月)をきっかけに生成AIが急速に普及し、企業が業務自動化ツールを本格導入し始めた時期と重なる。ゴールドマンはこの変曲点を境に雇用トレンドがどう変化したかを分析している。
中でも目を引くのがコールセンター業界の数字だ。雇用水準は歴史的なトレンドとの比較で、米国で39%減、カナダで33%減、ドイツで27%減と大幅に落ち込んでいる。ここでいう「39%減」は前年比ではなく、長期的なトレンド線から乖離した幅を示している点に注意が必要だ。コールセンター業務は顧客対応の定型フレーズや問い合わせ分類など、大規模言語モデル(LLM)が得意とするタスクと高度に重複しており、自動化の影響を最も早く受けた業種の一つとなっている。
ゴールドマンはこの結果を「業務自動化が可能なツールが普及している産業では、AI由来の雇用圧力がすでに可視化されている」と分析している。
同様の傾向は、ソフトウェアパブリッシング、経営コンサルティング、広告といった業種でも確認されており、いずれも先進国全体でトレンドを大幅に下回る水準に落ち込んでいる。コーディング補助ツールの普及や、マーケティングコピー・広告クリエイティブの自動生成が進んでいることと平仄が合う動向だ。
情報通信サービス分野の雇用は、ほぼすべての主要先進国で2022年以降に鈍化しているものの、米国を除けばまだ長期トレンドの近傍ないし上方にとどまっているという。つまり、圧力の深刻度には国によって差がある。
特に打撃を受けているのはエントリーレベル
ゴールドマンは800を超える職種の雇用成長を分析した結果、AIによるマイナス影響はエントリーレベル(新卒・若手)の労働者で最も強く出ていることを突き止めた。
具体的には、職種のAI露出度が10%上昇した場合、フランス・カナダ・米国では年間雇用者数の伸びに対する下押し圧力はわずか0.1ポイントにとどまる。しかしエントリーレベルに限定すると、その影響はオーストラリアで0.6ポイント超、米国でも0.2ポイント超と跳ね上がる。
「AIは既存の中堅・シニア社員より、これから就労しようとする層のキャリア入口を先に狭めている」という構図が数字として浮かび上がってくる。背景には、エントリーレベルの業務が定型的・反復的なタスクに集中しがちであり、AIが代替しやすい性質を持つという構造的な要因がある。新卒採用が絞られることで、若い世代が職場での実務経験を積む機会そのものが失われるという懸念は、雇用統計以上に長期的なキャリア形成への影響として注目されている。
加えて、AIによる代替リスクが高いとされる職種でも、追加的なマイナス効果が(やや小さいが)確認されている。
AI採用率は先進国で15〜20%
雇用への影響は、AI採用の広がりと並行して進んでいる。ゴールドマンは11種類のAI採用率調査を統合し、主要先進国の採用率はおよそ**15〜20%**と推計した。
国別では、フランス、米国、オランダ、英国が採用をリードしており、一方でイタリア、日本、ニュージーランドは先進国の中で下位グループに位置する。主要新興国の推計採用率は**10〜15%**とさらに低い水準だ。日本が下位グループにとどまっている点は、国内のDX推進状況や企業文化との関連からも注目に値する。
採用率が15〜20%という段階でこれほどの雇用圧力が現れているとすれば、採用率がさらに上昇した場合の影響は今後一段と広がる可能性がある。
レポートの総括
ゴールドマンの結論は、「AI起因の雇用圧力はグローバルな雇用データに明確に現れているが、影響はまだ比較的限定的な産業と労働者層に集中している」というものだ。全体への波及は今のところ限定的とはいえ、コールセンターやソフトウェア系職種での落ち込みはすでに無視できない規模になっており、今後の拡大を注視する必要がある。AIが雇用市場全体を揺るがすフェーズに至る前に、若手・エントリー層への支援策やリスキリング施策の整備が求められているといえる。
詳細はGoldman studied where AI is squeezing labor markets. Here's what it foundを参照していただきたい。