8月19日、The Next Webが「Anthropic plans supervoting shares for its founders」と題した記事を公開した。CEOのDario Amodeiが保有するAnthropicの株式はわずか約2%——にもかかわらず、上場後も創業者が経営支配権を維持できる体制を整えているという。持ち株比率と支配権の乖離を可能にするスーパーボーティング株と、もうひとつの仕組みの組み合わせが、Anthropicのガバナンス設計の核心にある。
創業者持ち分わずか2%、それでも支配権を握る仕組み
この話で最も興味深い数字は、CEOのDario Amodeiが保有するAnthropicの株式比率だ。**わずか約2%**——近年でIPOを目指した創業者CEOの中で最も低い水準のひとつだと、同社関係者がThe Informationに語った。
通常、持ち株が少なければ議決権も少ない。スーパーボーティング株はその関係を断ち切る。1株あたりの議決権を通常より多く付与することで、経済的な保有割合が低くても経営判断の主導権を保てる仕組みだ。
さらに特殊なのは、創業者間の持ち株比率がほぼ均等である点だ。Amodei自身は昨年のポッドキャストで「創業者間でほぼ均等に分けた」と発言しており、The Informationの報道によれば、彼を含む7人の共同創業者がそれぞれほぼ等しい比率を保有している。妹でAnthropicのプレジデントを務めるDaniela Amodeiもその一人だ。7人で均等割りとなれば、一人あたりの持ち分は当然小さくなる。スーパーボーティング株の必要性が際立つ構造だ。
このようなデュアルクラス(複数議決権)株式構造はテック業界では珍しくない。MetaのMark ZuckerbergやSnapのEvan Spiegelも同様の仕組みで支配権を持つ。なお、デュアルクラス構造は上場後も有効なまま維持されるケースが多く、NASDAQやNYSEはこうした複数議決権株式を持つ企業の上場を認めている。日本の取引所では原則として認められていない仕組みだが、米国では特にテック系スタートアップで広く普及しており、創業者が上場後も経営方針の主導権を握るための標準的な手段となっている。
取締役会を縛る「長期信託」
スーパーボーティング株だけではない。Anthropicのガバナンスにはもうひとつのレイヤーがある。取締役会のメンバー構成を管理する長期信託(Long-term Trust)だ。これにより、上場後も取締役会の構成が創業者の意向から切り離されにくい体制になる。
2つの仕組みを組み合わせると、支配構造の方向性は明確だ。どれだけ多くの株を買った投資家であっても、創業者と信託が最終的な意思決定を握り続ける。Anthropicはこの体制を「安全性へのコミットメントを市場圧力から守るため」と説明してきた。
IPOの規模感——評価額9650億ドル
この体制整備が急ピッチで進むのは、上場が近いからだ。Bloombergの報道によれば、AnthropicとライバルのOpenAIはいずれも非公開での上場申請書類(コンフィデンシャルS-1)を提出済みで、Anthropicは早ければ今秋にもOpenAIに先行して上場する可能性がある。
数字の規模はこうだ(以下の売上高数字はBloombergの報道による):
- 評価額:9650億ドル(2026年5月の資金調達後、OpenAIを初めて上回った。元記事に円換算の記載はないため、本稿では原文の数字をそのまま使用する)
- 年換算売上高:650億ドル超(7月末時点)
- 直近四半期売上高:115億ドル超(前年同期787百万ドルから急拡大)
- IPO前リボルビングクレジット枠:100億ドル超(昨年確保した25億ドル枠から大幅拡大)
幹事行はMorgan Stanley、Goldman Sachs、JPMorganの3行。銀行団がこぞってポジション争いをしている構図で、SpaceXがIPO1ヶ月前に自社のクレジット枠を15億ドルから50億ドルに拡大した動きと重なる。なお今年のIPO市場全体での調達額は2570億ドルと、2021年以来の高水準にある。
公開株主にとっての「取引条件」
上場後に株を買う投資家にとって、これは明確なトレードオフだ。株を保有しても、経営方針への発言権は限定的になる。創業者が戦略と人事の最終決定権を持ち続ける構造だからだ。
インデックスファンドや機関投資家のガバナンス推進派はこうした構造を長く批判してきた。一方の支持側は「四半期ごとの株価に左右されず長期視点で経営できる」と反論する。
Anthropicの場合、「安全性の使命を守る」という独自の文脈が加わる。ただし、Dario Amodei自身が「AI企業は約束を常に果たしてきたわけではない」と認めている点は、投資家が判断する上で無視できない事実だ。
現時点では、株式クラスの具体的な条件や信託の設計はまだ確定していない。正式な申請前に変更される可能性があり、今後の続報を注視する必要がある。
詳細はAnthropic plans supervoting shares for its foundersを参照していただきたい。