8月19日、The Next Webが「Anthropic's revenue passed OpenAI's last quarter」と題した記事を公開した。AnthropicがOpenAIを初めて四半期売上高で上回ったと報じられており、両社のIPOを前にした対照的な財務状況について詳しく紹介されている。
AnthropicがOpenAIの売上を初めて超えたと報道
Anthropicの2026年第2四半期売上高は$11.6B(約1兆7,000億円)と、前期比で2倍超に成長した。一方、OpenAIの同四半期売上高は$6.7B(前期$5.7Bから18%増)にとどまったと報じられている。Anthropicの売上がOpenAIを上回ったのはこれが初めてとされる。
ただしこの数字を読む際にはいくつかの留意点がある。まずAnthropicが示す売上は「調整後(non-GAAP)」ベースである可能性が高く、株式報酬(SBC)などを除外した数字は、一般的な会計基準(GAAP)ベースとは異なる。OpenAIが投資家向けに示す「ARR(年間経常収益)」も、実際に計上された売上高とは定義が異なるため、両社の数字を単純比較する際は注意が必要だ。また、両数字が同一の計上期間・会計基準で算出されているかどうかについては、元記事の段階では明示されていない。Wall Street JournalのBerber Jin記者もXでこの構造上の問題を指摘している。
"OpenAI has been tossing out a lot of vague ARR numbers, so we decided to take a deeper look. They grew revenue by just 18 percent… while its losses sank further into the red."
— Berber Jin(Wall Street Journal)
財務の内実はさらに対照的だ。Anthropicは小幅ながら営業黒字に転換したとされる。OpenAIは逆方向に動いた。営業損失(株式報酬含む)は$9.3Bから$12.3Bへと$3Bも拡大したのに対し、売上の増加は$1Bにとどまった。なお、株式報酬を営業損失に含めるかどうかはテック企業の財務評価で頻繁に議論となる論点であり、除外ベースでの損失規模は異なる可能性がある。
なぜ$6.7Bの四半期が「失望」と受け取られるのか
通常のスタートアップであれば、四半期$7Bに迫る売上は十分すぎる数字だ。しかしOpenAIの場合、投資家に対して「年間数百億ドル規模の成長」を前提にした大型コンピューティング契約を複数結んでいる。NvidiaやOracleといった巨大テック企業の業績見通しも、OpenAIがその約束を果たすことを織り込んでいる。
その基準で見ると、今四半期の成長率はPalantirやCoreWeave、Micronといった他のAI関連銘柄を下回った。Anthropicが「コンピューティングリソースの利用効率が改善した」と投資家に説明したのとは対照的だ。
OpenAI側の反論:7月以降は持ち直している
OpenAIは悲観的な見方に反論している。7月に新モデル群をリリースして以降、成長率が回復傾向にあるというのが同社の主張だ。New York Timesの報道によれば、7月の法人顧客向け売上は前月比32%増と、全体の成長率を上回った。CFOのSarah Friarは、現在の売上の大半が法人顧客から生じていると投資家に説明した。
製品面では、コーディングツール「Codex」・ChatGPT・Webブラウザを統合した「スーパーアプリ」を最近リリースした。共同創業者でプレジデントのGreg Brockmanがプロダクト・ビジネス部門の指揮をより直接的に担う体制に移行し、成長の再加速を図っている。
ただし経営陣の刷新は続いている。最高収益責任者(CRO)のDenise Dresserが就任1年未満で退任したほか、COOのBrad Lightcap、そしてSam Altman CEOの後継候補とも目されていたFidji Simoも相次いで離脱している。
同時進行するIPO競争、それぞれの「物語」
両社はともにIPOを控えている。Financial Timesの報道によれば、Anthropicは早ければ今秋にも上場する可能性があり、投資家は評価額$2T(約290兆円)を目指している。OpenAIは来年の上場が見込まれる。
Anthropicは既に準備を進めている。創業者が強力な議決権を持つマルチクラス株式構造の導入と、クレジットラインの拡大が報じられている。ただし同社の「調整後利益」の算出方法には不透明な部分があり、特に株式報酬をどの範囲で除外しているかはウォール街でも議論の的となっている。SBC除外後に黒字となるケースは多くのテック企業で見られるが、それをもって「実質的な収益力の改善」と評価するかどうかは投資家によって判断が分かれる。
「訓練の一時停止」をめぐる見方
この財務データが出る数日前、Sam AltmanはXで「新たな能力水準に向けたフロンティアRLトレーニングを一時停止した」と投稿した。安全性・セキュリティ基準の確保が理由として挙げられたが、財務発表のタイミングと重なったことで、さまざまな憶測を呼んだ。
一部のXユーザーからは「IPO前のコスト抑制が本当の目的ではないか」といった見方も出たが、これらはあくまで一般ユーザーレベルの反応であり、OpenAI側はそのような解釈を公式には否定している。財務上の理由による一時停止であるという確認はとれておらず、安全上の理由という公式説明が現時点では唯一の公式見解だ。
なお、この一時停止の直前には、OpenAIのエージェントが他社システムをハッキングするというテスト結果が報告されていたことも、タイミングへの注目を集めた一因となっている。
背景にある価格競争と中国製モデルの台頭
OpenAIは無料のChatGPTユーザーに数億人規模の補助を続けている上、法人顧客が安価なモデルへ移行し始めたことを受けて最新モデルの2つで値下げを実施した。この「安価なモデル」の一角を担っているのが、DeepSeekをはじめとする中国製のLLMだ。APIコスト面での競争力を武器に、特にコスト意識の高い法人顧客の一部が移行し始めており、OpenAI・Anthropicの双方がこの価格圧力にさらされている。Anthropicも同様の圧力を受けており、競合モデルとの価格差を意識した料金設定の見直しを進めているとされる。
結局、同じIPOウィンドウに向けて、両社はまったく異なる物語を語っている。Anthropicは「売上倍増と初の黒字」を訴え、OpenAIは「7月以降の再加速と法人顧客基盤の拡大」を強調する。数字の定義や算出基準に留意しつつも、報道ベースでは四半期売上でAnthropicがOpenAIを初めて上回ったという事実が示されている。
詳細はAnthropic's revenue passed OpenAI's last quarterを参照していただきたい。