8月19日、Wiredが「Coders Say They Already Found Workarounds to Claude's Invisible Watermarks」と題した記事を公開した。AnthropicがClaudeに導入した不可視ウォータマークが、発表からわずか数時間で回避ツールを作られた経緯について詳しく紹介している。
EU規制への対応として鳴り物入りで導入された技術が、リリース当日中に突破された。これはウォータマーキングという手法そのものの限界を示しているのか、それとも想定内の「いたちごっこ」の始まりに過ぎないのか。
発表から4時間で回避ツールが公開
Anthropicが「ClaudeモデルはAI生成コンテンツに不可視のウォータマークを埋め込む」と発表してからわずか4時間で、開発者Guillaume Meyerは回避コードをGitHubに公開した。そのリポジトリはその後急速に拡散し、現在Xで2万件以上のブックマーク、100人以上のコントリビューターを集めている。あるAI専門家はMeyerの投稿とともに「Anthropicはウォータマークを埋め込んでいる…しかしその問題は1日後には歴史的な話になった」とXに投稿した。
Claudeのウォータマークには、Googleが開発しテキスト・画像など複数モダリティ向けに展開してきた**SynthID**が使われている。仕組みは、Claudeが選ぶ単語や語句のパターンに人間には判別できない規則性を持たせ、検出ツールがその規則性を機械的に識別できるようにするというものだ。
なぜ今、ウォータマークなのか
背景にあるのはEUのAI規制法(EU AI Act)だ。2026年8月初めに施行された新規則では、AnthropicやOpenAIのようなモデル提供者はAI生成の音声・画像・映像・テキストに対して、コンテンツが機械可読な形で検出できるようラベリングすることを義務付けている。違反した場合は**年間売上高の最大3%**の制裁金が科される。
EU AI Actの透明性実践規範にはOpenAI、Microsoft、Metaを含む190の組織が署名しており、新規モデルは8月以降のリリースからウォータマーク対応が必須、既存モデルへの統合は12月までに完了しなければならない。ただし各社が実際にいつどのように実装するかは明らかになっていない。
なお、OpenAIでも研究者のScott Aaronsonが同様の手法を提案していたが、「ウォータマークがユーザー離れを招く」という懸念から導入が見送られていた経緯がある。
回避手法の技術的な中身
Meyerのツールはシンプルな発想に基づいている。ウォータマークを持たない別のLLMを使ってテキストを複数回リライトし、同義語への置き換えや文構造の微調整を行うというものだ。
他にも複数の開発者が独自の手法を公開している。
- Erik Hughes(ソフトウェアエンジニア):Claudeを使って15分で作成したツール。不可視文字や類似文字の除去、段落内での文の並び替え、複数の単語の同義語置換を組み合わせる。
- Leon Chlon(オックスフォード大学ビジティングフェロー):Claudeの応答を要約し、英語とは意味構造が大きく異なるアラビア語方言に翻訳してから英語に戻す、という手法を採用。
Anthropicは自社のウォータマーク検出APIを近く公開する予定で、開発者たちはその時点で初めて各自の回避手法の有効性を正式に確認できる見込みだ。さらにAnthropicは自ら「大幅に編集・言い換え・翻訳されたコンテンツにはウォータマークが残らない可能性がある」と認めており、技術的な限界は公式に認識されている。
「ウォータマーク自体が悪手」という批判
Meyerが回避ツールを作ったのは反AIの立場からではない。「透明性に反対しているわけではなく、コンテンツの帰属表示も支持する。ただウォータマーキング自体が本当に悪い解決策だと思っている」と語っている。
彼が最も懸念するのは偽陽性のリスクだ。フランス語ネイティブの彼は、自分の文章の校正にClaudeやGrammarlyを日常的に使う。ウォータマークの検出結果はあくまで「Claudeが関与した確率」に過ぎず、Anthropic自身もそう認めている。にもかかわらず、その結果が採用選考や研究不正の判断材料として使われれば、不当な不利益を被る人間が出る、という主張だ。
AIスタートアップHaimakerのCTO・共同創業者Wayne Panも同様の理由でMeyerのツールを自社プラットフォームに組み込んだ。「彼らが誠意を持って取り組もうとしていることはわかる。ただ、あらゆる状況に耐えられるウォータマークは作れないと思う」と述べている。
詳細はCoders Say They Already Found Workarounds to Claude's Invisible Watermarksを参照していただきたい。