8月18日、テクノロジー評論家のEd Zitronが「What Happens If OpenAI Dies?」と題した記事を公開した。AI業界の財務構造を長年批判的に追ってきたZitronが、OpenAIの財務データと人事動向を根拠に「OpenAIの死」というシナリオの現実味を論じた内容だ。
Zitronは「Better Offline」ポッドキャストのホストとしても知られ、AIバブルへの懐疑的な立場から財務分析を発信し続けてきた人物だ。今回の記事は、同じ週に起きた二つの人事ニュースを入り口に、OpenAIの財務的持続可能性という核心へと切り込んでいく。
COOとCROが同週に去った意味
記事が公開された週、OpenAIではCOO(最高執行責任者)のBrad LightcapとCRO(最高収益責任者)のDenise Dresserが相次いで退社した。LightcapはもともとOpenAIのCFO(最高財務責任者)を務めていた人物で、CFO職を離れてCOOに転じていた経緯を持つ。
Zitronが特に注目するのはDresserの退社だ。就任からわずか約8カ月でのCRO離脱であり、就任4カ月後にはCNBCで「これほど急速に広がるコンビクション(確信)を見たことがない」と語っていた人物が去っていった。CROという職位は通常、IPO前の企業において最も旨味のある株式オプションを持つ。それを手放して8カ月で退社したという事実は、OpenAIのIPOに対する社内の期待値が急速に下がっていることを示唆する、とZitronは論じる。
AnthropicがOpenAIの収益を逆転した
記事の核心は、AnthropicがOpenAIよりも先にIPOを果たした場合、OpenAIには現実的な上場の道が残らないという論点にある。
Anthropicは2021年にOpenAIの元研究者らが設立した競合AIスタートアップで、大規模言語モデル「Claude」シリーズを開発している。2023年ごろまでOpenAIの後発とみなされていたが、2026年に入って状況が変わった。
現時点での収益の実態はこうだ:
- AnthropicのARR(年換算収益):2026年5月時点で約65億ドル(Bloomberg報道)
- OpenAIのARR:2026年8月時点で約40億ドル(Bloomberg報道)
- OpenAIの2025年実績:売上130.7億ドルに対し損失209億ドル
※ARR(Annualized Run Rate)は「直近の収益を年換算した数字」であり、確定した年間売上とは異なる点に注意が必要だ。
Zitronはメディアの報道姿勢にも疑問を呈する。Financial TimesとReutersが相次いでAnthropic寄りの報道を出しており、FTは投資家の「リーク」として「年換算収益1,000〜1,200億ドル」という数字を伝え、Reutersはさらに現在の実績ではなく2年後の予測収益(1,900〜2,000億ドル)を基に評価すべきだと示唆する記事を掲載した。Zitronはこれを「ignore your lying eyes(目の前の事実を無視しろ)」という懇願だと切り捨て、記事中では「could, could, could, could, could, could could COULD!」という強調で皮肉っている。
「年換算収益」という数字の作られ方
Zitronが特に強調するのが、AI企業が多用するARRの恣意性だ。
OpenAIはARRを「直近4週間の収益×12」で計算している。The Informationの報道によれば、社内ではさらに「直近1週間のスパイクだけで計算すれば300億ドルになる」とも語られていたという。
OpenAI calculates annualized revenue by multiplying the last four weeks' revenue by 12. If OpenAI calculated the metric based on revenue spikes just in the last week, OpenAI's annualized revenue would be roughly $30 billion, one of the people said.
製品ローンチなどで特定の週に利用が集中すれば、その週だけで年換算すると数字を大きく見せられる。Claudeでは「誤って5億ドル分のトークンを消費したケース」のような異常値が収益に計上されうるという指摘もある。さらに、AIのトークン消費は定期購読型の売上と違い、反復性が担保されていない。ARRは企業の財務的な健全性をほぼ反映しない、とZitronは断言する。
Q1 2026の実態
The Informationの報道によれば、2026年第1四半期のOpenAIは:
- 売上:57億ドル
- コスト・オブ・レベニュー(主に計算インフラコスト):121億ドル
- 差し引き損失:64億ドル以上(マーケティング費用を除く)
2025年通期では、マーケティング費用だけで57.3億ドルを費やしている。さらに同じ週に完了したと報じられた70億ドル規模のテンダーオファー(既存株主からの株式買い取り)と合わせると、資金の使途と財務の持続可能性への疑問はさらに深まる。
「OpenAIが死んだら何が起きるか」
Zitronはこれらのデータを積み上げたうえで、タイトルの問いに向かう。彼が描くシナリオは、OpenAIが単独での上場に失敗し、資金調達の道が閉ざされた場合の連鎖だ——AIインフラへの依存を深めた企業・行政・教育機関が一斉に足元をすくわれる状況である。
Zitronはノーム・チョムスキーが提唱したメディア批評の概念「manufacturing consent(合意の製造)」を転用し、楽観的な財務報道がAI業界への過剰な信頼を作り出していると論じる。個々の報道が事実の断片を伝えながらも、全体として「AIは安全な投資先だ」という合意を形成していくプロセスへの批判だ。
COOとCROが同週に退社し、IPOの見通しが曖昧になり、Anthropicに収益で追い抜かれ、財務報道が「将来の仮定」に頼り始めている——。Zitronはこれらが重なった2026年8月時点の状況を踏まえ、「OpenAIの死」をもはや笑い飛ばせる思考実験ではないと結論づける。
詳細はWhat Happens If OpenAI Dies?を参照していただきたい。