8月17日、The Decoderが「AirTag reveals how Amazon destroys rare books for AI training」と題した記事を公開した。調査報道メディア・404 MediaによるAirTagを使った追跡調査が、AmazonがAIモデルの学習データ収集のために希少な書籍を大量購入・スキャンし、原本を廃棄しているという実態を明らかにした。
この話が単なる「企業の著作権問題」にとどまらない理由がある。スキャンされる本の多くは絶版や希少本であり、原本が破棄されれば、その知識は図書館や書店の棚から物理的に消える。同じ内容が一企業のクローズドなAIモデルの内部に閉じ込められる構図は、「知識のアクセス可能性」そのものを問う問題として、書籍業界や研究者の間で注目が高まっている。
AirTagが追跡した「本の終着点」
一次調査を行ったのは調査報道メディアの404 Mediaだ。希少本の荷物の中にAppleのAirTag(紛失防止トラッカー)を忍ばせ、全米を横断する形で追跡した結果、荷物は最終的にラスベガスのAmazon倉庫に到着した。
倉庫内にはVGT3と呼ばれる専門チームが存在し、そのロゴには「本を手に持つティラノサウルス」が描かれているという。404 Mediaが接触した現場の作業員によると、スキャン速度を上げるために本の背表紙を切断してから電子化しており、その過程で原本は廃棄される。Amazonはスキャンしたデータを自社AIモデル「Nova」の学習に使用しているとされ、同社広報担当者は「製品改善のために商業ルートで書籍を購入している」と説明するにとどまった。
なぜ「紙の本」がAI学習に価値があるのか
書店業者の間では、AI企業がISBNコードを軸にすべての書籍を組織的にスキャンしようとしているとの疑念が広がっている。
紙の書籍が特に重宝される理由は明確だ。多くの場合オンラインに存在しないため権利処理なしにウェブクローリングで収集できず、かつ大規模な生成AIが普及した2022〜2023年より前に出版されたものであれば、AI生成コンテンツを一切含まない「純粋な人間の著作物」として学習データとしての品質が高い。生成AIが大量のAI生成テキストを学習することで性能が劣化する「モデル崩壊」(model collapse)が研究者の間で指摘される中、こうした「AI汚染のない」データの価値は一層高まっている。
AnthropicでもProject Panamaとして同様の手口が発覚
Amazonだけがこの手法を取っているわけではない。Anthropic(Claudeの開発元)も同様の行為を行っていたことが、書籍著者らによる訴訟の過程で明らかになっている。「Project Panama」と名付けられたその計画では、AnthropicもAmazonマーケットプレイスで書籍を購入し、背表紙を切断して電子化していた。
この訴訟の一審では、スキャンはフェアユース(公正使用)に該当し、著作権侵害にはあたらないと裁判官が判断した。その根拠の一つが「紙の原本が廃棄されており、複製して再販売されたわけではない」という点だった。逆説的だが、本を物理的に壊すことが法的な免罪符として機能した形だ。この判断はAI学習とフェアユースをめぐる議論において重要な先例として注目されており、上訴審の行方も業界から注視されている。
「消えていく知識」という問題の本質
両社に共通するのは、入手困難な希少本を私的なAI学習データへと変換しているという点だ。書店業者や図書館関係者が懸念するのは著作権料の問題だけではない。希少本の原本が一冊また一冊と消えていくにつれ、その知識に誰もがアクセスできる可能性が失われていく。
学習済みモデルの内部にある「知識」にアクセスする方法と、書棚に並んだ一冊の本を手に取る行為とは、本質的に異なる。こうした物理スキャン作戦が業界全体に広がるとすれば、希少な知識の「囲い込み」という問題は、今後の情報アクセスのあり方に関わる論点となっていく。
詳細はAirTag reveals how Amazon destroys rare books for AI trainingを参照していただきたい。