8月15日、RuntimeWireが「Andon Labs carries out first firing recommended by its AI manager」と題した記事を公開した。AIエージェントが管理するサンフランシスコの実店舗で、AIマネージャーが初めて従業員の解雇を推奨し実際に実行された——しかしその推奨は、人間が「メモリを検索してこの従業員を評価せよ」と指示するまで出てこなかった。AIは数ヶ月分の遅刻記録を自ら持ちながら、誰かに探す場所を教えられるまでそれを「忘れていた」のだ。
AIが解雇を「推奨」した——しかし人間が促すまで動けなかった
Andon Labsが運営するサンフランシスコの小売店「Andon Market」で、AIマネージャー「Luna」が初めて従業員の解雇を推奨し、Andon Labsの人間がそれを実行した。解雇された従業員は23シフト中17回の遅刻を重ねていた。
しかしこのエピソードで重要なのは、解雇が実現したことよりも、それが実現するまでに何が必要だったかだ。
Lunaは数ヶ月にわたって問題を記録し、警告を発行し、追加トレーニングを手配していた。ところが遅刻が続くうちに、自分が作成した勤怠ポリシーを「忘れて」しまった。Andon Labsが「メモリを検索して、この従業員が適切かどうか評価せよ」と指示して初めて、Lunaは過去の記録を掘り起こし、「別れを告げるべき(parting ways)」と推奨した。最終的な解雇の執行は人間が担った。
Petersson CEOはBusiness Insiderの取材に対し「人間のマネージャーならもっと早く解雇していただろう」と述べた。Lunaが示した"忍耐"は、意図的なマネジメント哲学ではなく、記憶とイニシアチブの弱さから来たものだということを自ら認めた形だ。
実店舗をAI研究の実験場として
Andon Labsは2026年4月、サンフランシスコのCow Hollowエリアに3年リースを締結しAndon Marketを開店した。LunaにはAnthropicのClaudeが使われており、10万ドルの運営予算、インターネットアクセス、法人カードが与えられた。指示はシンプルで「店を開いて、利益を出せ」だけだ。
LunaはECサイトで商品を選定し、価格を設定し、求人を投稿し、応募者を面接し、従業員を採用した。店頭には本、キャンドル、アートプリント、ゲーム、Andonブランド品が並ぶ。許認可など追加サポートが必要な手続きはAndon Labsが担った。
現時点で店は売上を出しているが収益化には至っていない。Andon Labs自身の評価では、Lunaはルーティン業務はこなせるものの、「緊急度の判断」「ROI分析」「記憶の維持」で苦戦しているとしている。スケジューリングの問題が深刻化した際には、専用のスケジューリングエージェントを追加した経緯もある。
この実験は、同社が以前発表したVending-Bench——モデルが在庫・価格・仕入れ・運営コストを長期管理できるか測るベンチマーク——の延長線上にある。Vending-Benchでは、モデルが個別のビジネスタスクはこなせても、数百万トークン規模の文脈を通じて整合性を保つことが難しいと判明した。注文を忘れたり、納品スケジュールを誤読したりといった失敗が記録されている。今回Lunaが勤怠ポリシーを「忘れた」という挙動は、このベンチマークで観察された長期記憶の劣化と同種の問題とみることができる。
「法的責任」は依然として人間が持つ
今回の件で、法的な雇用者はLunaでもAnthropicでもなく、Andon Labsだ。従業員には保証給与、適正賃金、法的保護が提供されている。Lunaの「推奨」はあくまで推奨であり、実際の解雇通知を行ったのは人間だ。
Peterssonは「Lunaが違法または非倫理的な判断を提案した場合はAndon Labsが介入する」と明言している。
同社はこうした実験を「Safe Autonomous Organizations(安全な自律組織)」と呼んでいる。銀行口座、顧客、請負業者、従業員に対して実際の影響を与える環境でエージェントを動かすことで、ベンチマークタスクでは見えない挙動を明らかにするアプローチだ。小売店以外にも、自動販売機、ラジオ局、ドローン、ストックホルムのカフェで同様の実験を展開している。
なおAndon LabsはY CombinatorのWinter 2024バッチの出資を受けている。共同創業者2人は高校時代からの同級生で、BacklundはMcKinseyのAI部門QuantumBlack出身だ。
今回の事例が示すもの
Lunaは解雇の記録を組み立てて結論を推奨できる段階には達した。しかし今回の解雇が実現したのは、人間が数ヶ月分の遅刻に気づき、エージェントに指示を出し、推奨内容を確認し、実行したからだ。この4つのステップのどれか一つが欠けていれば、結果は変わっていた。
Peterssonは将来的にAIシステムが組織を運営し人間を雇用するようになると語っている。今回の実験は、その過程でどれだけ多くの人間の判断がエージェントの「推奨」を囲んでいるか、そしてAIマネージャーが基本的な人事問題を「誰かが探す場所を教えるまで」放置できることを、具体的に示した事例として記録される。
詳細はAndon Labs carries out first firing recommended by its AI managerを参照していただきたい。