8月16日、RuntimeWireが「Anthropic nears $7B Decart deal after founders favor it over Nvidia」と題した記事を公開した。AnthropicがイスラエルのAIスタートアップDecartを約70億ドルで買収する交渉が最終局面を迎えており、DecartがNvidiaの高額オファーを退けてAnthropicを選んだ経緯に業界の注目が集まっている。ただし、GoogleとSpaceXも代替候補として残っているとされ、記事執筆時点で合意は未署名である点はあらかじめ押さえておきたい。
NvidiaよりAnthropicを選んだ理由
今回の買収劇で最も注目されるのは、DecartがNvidiaの「より高い評価額」を断り、Anthropicを選んだという点だ。
RuntimeWireがCtech(2025年8月10日報道)を引用したところによると、DecartはもともとまずـNvidiaと交渉を進めていたが、Anthropicが交渉に加わった後、Nvidiaとの協議を打ち切った。Decartの創業者であるDean LeitersdorfとMoshe Shalev、そして最大の投資家であるSequoia Capitalが、Anthropicを「優先的なオーナー」と見なしているという。
なぜ高い値段を提示したNvidiaではなくAnthropicなのか。記事はその答えをシンプルに説明している。
Anthropicはチップメーカーとしての流通チャネルを提供した。AnthropicはDecartの技術を、まさにその技術が加速するために設計されたワークロードの中に置く場所を提供した。
要するに、Decartが開発した推論最適化スタックが「最も意味を持つ場所」はAnthropicのインフラの中だ、という判断である。NvidiaはGPUを売る会社であり、Decartの技術の顧客にはなりえても、その技術をフルに活用する主体にはなりえない。
また、支払い構造も判断に影響している。取引の大部分はAnthropicの株式で支払われる予定で、AnthropicはIPOに向けた目論見書を提出済みとも報じられている。9月か10月にも上場が予定されており、株式での受け取りはDecartの株主にとってIPO後の価値上昇を取り込む機会となる。
冒頭で触れたとおり、GoogleとSpaceXも代替候補として名前が挙がっており、合意が覆る可能性はゼロではない。この取引が持つ意味の大きさは、裏を返せば各社がDecartの技術をそれだけ高く評価していることの証左でもある。
Decartとは何者か
Decartは2023年9月7日に設立されたイスラエルのAIスタートアップで、創業から2年足らずでの大型M&Aとなる。
創業者のDean Leitersdorfは23歳でテクニオン(イスラエル工科大学)のコンピュータサイエンス博士号を取得。CTOのOrian Leitersdorfは21歳で同大学の博士号を取得した。もう一人の共同創業者Shalev氏は、イスラエル国防軍の精鋭情報部隊「Unit 8200」(サイバー・情報収集を担うエリート部隊で、多くのテック起業家を輩出したことで知られる)に約13年間所属し、AI部門の運営を担った。
Decartが取り組んできた問題は、フロンティアモデルの推論コスト削減だ。同社のDecart Optimization Stack(DOS)は、ハードウェアに最適化されたモデル設計、コンパイラ、カーネルツール、推論最適化を一体化したスタックで、NvidiaのGPU、GoogleのTPU、AmazonのTrainiumチップにまたがって動作する。
カナダのAI特化VC「Radical Ventures」が2025年5月に公表した数字によれば、DecartのスタックはエージェントAI推論において毎秒1,600トークン以上を達成しているという。「トークン/秒」はAI推論速度の標準的な測定単位で、モデルが1秒間に生成できる単語断片の数を指す。業界平均は約200トークン/秒とされており、同社はその8倍以上の速度を謳う。ただしこれは投資家が提供した数字であり、モデル・ハードウェア・ワークロードによって結果は変わる点には留意が必要だ。
同社の製品としては、ユーザー入力に応じてリアルタイムで映像を変換する「Lucy」、ゲームやロボティクス、自律システムシミュレーション向けのインタラクティブ環境を生成する「Oasis」などがある。
Anthropicにとっての意味
Anthropicがこの買収に動く理由は、推論コストの削減という一点に集約される。Claudeの応答、コーディングタスク、エージェントワークロードを処理するための計算コストを下げることは、AIの成長における中心的な制約になっている。
さらに、DOSのハードウェア非依存な設計は、AnthropicがNvidiaのGPUだけに依存せずワークロードをチップサプライヤー間で分散させる自由度を高める。チップの供給制約が続く中で、これは戦略上の意味を持つ。
Decartの現在の評価額は約70億ドルで、5月に3億ドルの資金調達で付いた評価額(約40億ドル)から、わずか3ヶ月で75%上昇したことになる。5月のラウンドにはRadical Ventures、Nvidia、Sequoia、Benchmark、Atreidesらが参加しており、調達総額は4億5,000万ドル超に達する。
買収が成立すれば、Decartの従業員約100人が加わり、Anthropicにとって初のイスラエル開発拠点が生まれることになる。合意書の最終化が進んでおり、9月初旬にも署名される可能性があるとも報じられている。
詳細はAnthropic nears $7B Decart deal after founders favor it over Nvidiaを参照していただきたい。